ミシュランのモータースポーツ戦略 ワンメイクでも技術の研鑽を

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カテゴリー: コラム

ワンメイクでも技術の研鑽は可能

 「コンペティターがいなくても自らにハードルを課していけば、技術は必ず進化する」――ミシュランのモータースポーツに対する方針は、この数年徐々に変化し、結果的に大きな転換点を迎えることになった。

 同社では「タイヤの性能はギリギリの世界で証明してこそ、本当の性能を示すことができる」との考えのもと、長年にわたり、ライバルたちと激しい戦いを繰り広げてきた。だが、10年ほど前からワンメイク化を進めるレース主催者側の意向と折り合いが付かず、2006年にF1、そして2008年にはMotoGPと、四輪・二輪それぞれの世界最高峰の舞台から姿を消していた。

フォーミュラE
ミシュランがタイヤをワンメイク供給するフォーミュラE。タイヤサイズは18インチ

 それがここに来て一転、2016年シーズンからMotoGPへの復帰を決めた。さらにこの9月からは新たなカテゴリーとして世界的に注目が集まる電気自動車による「フォーミュラE」への供給がスタートする。ともにタイヤはミシュランの単独供給となる。コンペティションをいわば“DNA”とし、一貫してワンメイクに反対し続けてきた従来の方針を改めた理由はどこにあるのか。

 「F1やMotoGPのように技術を突き詰めていかなければならないカテゴリーの中、競争がないのは何の意味があるのか?――これが撤退した当時の考えとしてあった。一方でル・マン24時間のように結果的に参戦車両の7、8割がミシュランを装着しているというレースもあり、競争相手がいないに等しい状況が生まれてしまった」(同社)。

 そうした状況下、導き出したのは〝自らに課題を課す〟という答えだ。例えば、スティントを長くすることで使用本数を減らす。あるいはタイヤ幅を細くすることでタイヤの軽量化、使用材料の削減に繋げるなど、多くのチャレンジがある。1回のレースに持ち込むタイヤのスペックを減らすことは、環境負荷低減に貢献するだけでなく、より幅広い路面状態や天候に対応する技術が求められる。つまり、これは市販タイヤにフィードバックできる技術開発に繋がる。

 「こうした取り組みを続けた結果、コンペティターがいなくても技術の研鑽は可能だと少しずつ気付いていった。自らにハードルを課していけば、技術の進歩を見ることができるし、それを市販タイヤに反映できる」

 ミシュランには、「あくまでも市販タイヤにフィードバックするため」というレース参戦へのポリシーがある。MotoGPへ復帰する理由の最たるものは“17インチのタイヤ使用を課す”という2016年から実施されるレギュレーションの変更があったからこそだ。

多様性が生み出すイノベーション

MotoGP
MotoGPのマシン

 ミシュランがモータースポーツ活動へ参加する目的は、レースに勝つことやブランド力を向上するためではなく、〝市販へのフィードバック〟が第一に優先される。MotoGPへの復帰は、「17インチのタイヤ使用を課す」というレギュレーション変更がなければ実現していなかった可能性が高い。

 現在市販されているスポーツバイクは17インチクラスが主流。レースでのみ使用される特殊なサイズで技術を進歩させても、それを市販用に展開できなければ目的は果たせないというスタンスだ。

 これは2006年のF1撤退時、理由の1つとしても挙げられていた。「あれだけワイドな13インチを装着する市販車がどこにあるのか。F1用タイヤとしては確かに技術は進んでいくだろう。だが、その技術を持っていく先が限られていては何の意味があるのか」

 こうした意見は現在のF1サプライヤーである伊・ピレリからも聞かれている。同社は「乗用車用タイヤとレース用タイヤが密接な繋がりを持つべき」と表明し、将来へ向けて18インチコンセプトタイヤのテストを始めている。

 ところでミシュランの組織体系は非常にユニークだ。いわゆるレース用タイヤを専門に開発するエンジニアはおらず、あるエンジニアがレーシング用のタイヤを開発しながら、全く別のカテゴリーにも携わっているケースが少なくない。例えば、先日発売された「シボレー・コルベットC7」の新車用タイヤを開発したスタッフは、ル・マン24時間レースに供給したタイヤ、さらには農業機械用タイヤの開発も同時に担当しているという。

 一見するとバラバラなようだが、実はこれが強みとなる。部門間の縦割りの弊害をなくし、人材の多様な組み合わせにより、幅広い視野で物事を発想する――その結果、あらゆる角度から最適な回答を導き出すことができる。

 過去、数々のイノベーションを生み出してきたミシュラン。今では市販用タイヤに当たり前のように搭載されている技術の多くが、モータースポーツ活動を通じて誕生した。9月に始まるフォーミュラE、そして2016年に復帰するMotoGPはワンメイクであるがゆえに、乗り越えるべきハードルは一層高い。そのフィールドで生みだされる新技術が、近い将来、一般ユーザーが日常使用するタイヤにどのような形で応用されていくのか。寄せられる期待は大きい。


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