タイヤメーカーが消費者とのコミュニケーション活動を積極化している。横浜ゴムは中期経営計画の戦略の中で「コミュニケーション活性化」を掲げ、厳しい市場環境の中でブランドの魅力を確立させる活動に取り組む。タイヤ企画本部消費財製品企画部の政友毅部長と経営企画部の土岐尚子氏にその狙いや展望を聞いた。
ライフスタイルに入り込んだブランドへ
――中期経営計画のタイヤ消費財事業の中で「お客様とのコミュニケーション活性化」を掲げた背景は。
「我々のビジネスでは、OEメーカーやタイヤ販売店さんとのやり取りが多いのですが、実際にタイヤを使用して頂いているエンドユーザーさんとのコミュニケーションも重要です。ただ、これまでコミュニケーションを積極的にできていたかというと反省点もあります。
もしかすると、タイヤ業界全体がほかの消費財商品と比較してユーザーとのコミュニケーションが低い傾向があったのかもしれません。もっと接点を増やしユーザーの意識の中で、『ヨコハマ』という名前が浮かぶようにしていきたいと思っています」
――蔦屋でのファン交流イベントやカフェとのコラボレーションなど相次いでイベントを実施しています。
「これらのイベントはいずれも当社として初の試みです。蔦屋ではクルマ・バイクコーナーとコラボレーションし、ADVAN(アドバン)ブランドを全面に押し出して、元々、クルマやタイヤに興味がある方をターゲットに実施しました。
一方で、カフェはそれほどタイヤに興味が無い方にアプローチすることが目的でした。ミュージック、カフェ、ドライブを組み合わせて、音楽とドライブを楽しみながら快適な車内空間を提供できるタイヤを紹介しました。
普段はタイヤ、横浜ゴムのことを意識したことがない人には、タイヤとは全く別のアイテムを通じて親近感を持って頂けたと感じています。誰に何が響くかはやってみないと分からないことですが、試みとして良かったですね。
今後も新たなコミュニケーションに色々と取り組んでいこうと考えています。例えば体験型のイベントは面白いかもしれません。今は“コト消費”が重要になってきていると言われています。タイヤだけを訴求するのではなく、ユーザーの方が興味や関心を持っている活動、その方々の趣味に入っていけるような取り組みを進めていきます」
――活動を通じて認知度向上を図ることも目的ですが、ここでいう認知度の意味は。
「国内市場で我々の認知度は高いと思いますが、ファンになって頂くという意味ではまだ足りないと思っています。“ヨコハマ”という名前は知っているという方は多いですが、ではどんなパーソナリティを持っているブランドなのか――そこまで行くにはまだ距離があります。より中身を知って頂くという意味での認知度は今後、一層高める必要があります」
「タイヤ業界全体を見ると、新興国メーカーの追い上げがあり、その中でタイヤは単なるコモディティ商品になってしまう可能性があります。我々としてはクルマを楽しんでいる人たちに選んで頂いて、そういう方々と一緒に会社も成長していきたいというのが前提にあります。
どういう方々に選んで頂いているのかを我々自身が知りたいですし、ユーザーの方々にとってかけがえのない存在になっていきたい――カーライフを楽しく、良いものを使って人生を良くしたいということが軸としてあります」
――コミュニケーションの観点から将来のイメージは。
「最終的にはタイヤの販売に繋げるために、『横浜ゴムが一番楽しい』『サイズが一番揃っている』など、お客様の満足度を高めてヨコハマタイヤの固定ファンが増えればと思っています。
タイヤは安価なものを探せば、非常に安い商品が少なくありません。我々としては、コモディティゾーンとは違う、ポジティブに選んで頂けるブランドを確立していきたいと思っています。
これまでは性能面や商品性だけで訴求する、性能の違いを押し付けているという側面もありました。言い換えれば、ライフスタイルに合っているかどうかは感じて頂けなかったのではないかと。ユーザーの生活に入り込んだ形でブランドを認知して頂ければ、競争の中で生き残っていけるはずです。
例えばウェットグリップ性能が『a』だとしたら、自らの生活の中でどのようにメリットがあるのか実感して頂く必要があります。雨の中でどんな安心感が得られるか、生活でどういったシーンがあるか――そこまで入り込んで提案していかないと、最後は性能の差だけの説明になってしまい、“自分ごと”にはなっていきません。
今回のカフェで『ADVAN dB』(アドバン・デシベル)を提案したのは、『タイヤによって快適な車内空間を提供できます』ということを示したかったためです。従来はノイズが何デシベル低減したというカタログ上の話でしたが、今回はお客様の楽しみとして『クルマで音楽を快適に聞くにはこういうタイヤがあります』と、“自分ごと”にして頂くきっかけになったのではないかと思います」
「今回は女性社員が多く参加して、色々なアイデアを提案しました。昨今、女性ドライバーが増えている中、従来からのコミュニケーションを変えていかなければなりませんし、社内の意識も変えていくことが必要です。
当社は歴史が長い会社ですので、特にADVANブランドに関しては、様々な方が想いを持っています。伝え方を誤ると『イメージと違う』と思われてしまうという難しさがあります。新しいことへのチャレンジは怖い側面もありますが、リアルな場で直接会ってコミュニケーションをしてユーザーを理解していかないといけません。その上で自分たちがどういう存在なのか、更に一歩上を目指していければと思っています」