将来も継続してタイヤ事業を運営するために必要なことは――世界的なモビリティの発展により、2017年まで8年連続で四輪車の生産・販売台数が増加し、タイヤの需要も拡大している。ただ、タイヤに使用する材料には限りある資源の石油由来の素材や、安定供給に課題が残る生物由来の素材も多く活用されている。こうした中、世界最大のタイヤメーカー、ブリヂストンはどのような取り組みを行っているのか――同社が目標とする“100%サステナブルマテリアル化”を中心に、タイヤ材料に関する研究開発の現状と将来像を原秀男フェローに聞いた。
持続可能な社会へリーダーシップを
――ブリヂストンの環境に対するアプローチを教えて下さい。
「当社はグローバルCSR体系“Our Way to Serve”を2017年に制定しました。ブリヂストンが社会の中で何の役に立つのかを明確にして、ステークホルダーの方にご理解頂くことはとても大事です。
ただ、『あれもやる、これもやる』だと分かりにくいため、当社グループが重点的に貢献していく3つの領域を“モビリティ”“一人ひとりの生活”“環境”という形で明確にしています。
3つの重点領域の中で、環境については、ただ『環境規制を守る』ということだけでなく、『持続可能な社会の実現に向けて我々がリーダーシップをとっていく』という想いを込めています。
環境に関する当社の取り組みは、国連開発計画(UNDP)の持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、『エネルギーをみんなに、そしてクリーンに』や『つくる責任、つかう責任』『気候変動に具体的な対策を』などと関係しています。
この17の目標は社会の中で集団が果たすべき役割を述べており、素晴らしいフレームワークだと思います。当社グループもこうしたゴールへ向けた具体的な取り組みを増やしていきたいと考えています」
「当社グループは2050年以降を見据えた環境長期目標において、“100%サステナブルマテリアル化”を掲げています。当社グループが定義するサステナブルとは、継続的に供給可能な資源から得られること、事業として長期的に成立すること、原材料調達から廃棄に至るライフサイクル全体で環境・社会面での影響が小さいということです。
タイヤの主要な原材料である天然ゴムは、強度や耐摩耗性などに優れた特性を持っており、タイヤの原材料として必要不可欠です。天然ゴムの安定的な供給確保はサステナブル化において非常に重要な課題です」
――天然ゴムに関する現状や取り組みは。
「天然ゴムは年間約1200万トンが生産および消費される植物由来の工業原料で、タイヤ産業が70~80%を使用しています。国別に見ると中国の消費量が圧倒的に多く、全体の約4割を占めています。
天然ゴムは中南米を原産とする『パラゴムノキ』という木の樹液から作られるのですが、20世紀初頭に中南米地域で病害が流行った影響で、パラゴムノキは現在ほとんどがアジアの熱帯地区で栽培されています。特に多いのはタイ、インドネシアなどです。西アフリカにもいくつかゴム農園があります」
「当社が定義するサステナブルマテリアルは、先に述べたように、材料そのものだけではなく供給や事業など全ての面を考慮しています。つまり、事業を継続的に続けていけるだけの量を確保し、リサイクルを含めた環境・社会面で持続可能でなければならないということです。
そこでポイントとなるのは、今ある資源を有効に使うことや生産性を高めることです。例えば、パラゴムノキは植物であるため病気にかかることがあります。代表的な病害である根白腐病に感染すると葉が茶色く枯れて落ちてしまい、木が死んでしまうのです。そのため、病害の早期発見を可能にする技術や、上空から広域を撮影・診断する手法なども研究しています。
現在、天然ゴムは大部分がパラゴムノキ由来なのですが、農園を拡大するとなると熱帯雨林を伐採しなくてはなりません。しかし、それはCO2のバランスを悪化させることにつながります。
当社グループは、農園の拡大による森林伐採をすることなく、長い時間をかけて限られた土地で生産性を向上することに取り組んできました。今後も、天然ゴムの生産性向上技術の開発を継続していきます」
「パラゴムノキ由来の天然ゴムの安定供給には、産地の偏りや気候変動の影響など様々な課題もあります。また、過去には投機マネーが天然ゴム市場に入ってきて、天然ゴム価格が需要と供給に関係なく激しく変動したこともありました。
そこで、将来も安定して事業を継続するために、パラゴムノキ以外の新たな天然ゴム供給源を確保できないかと考えて研究を進めたものが『グアユール』と『ロシアタンポポ』になります。
グアユールは木の茎と根に天然ゴムの成分が含まれています。当社は米アリゾナ州で2013年に研究農場、2014年に加工研究所を完成させました。
グアユール由来の天然ゴムからタイヤを作り、パラゴムノキとほとんど品質が変わらないということまで確認できています。パラゴムノキのある熱帯地区に頼らないような天然ゴムの供給源として、アリゾナやアフリカの北部などの砂漠地帯を活用することを考えています。
一方、ロシアタンポポはパラゴムノキやグアユールと異なり、北の地域で栽培されます。こちらは根に天然ゴムの原料となる成分が含まれており、実用化できれば天然ゴム供給源の多様化につながります。ロシアタンポポから天然ゴムを抽出する技術の確立や品種改良が今後の課題です」
「天然ゴムに関する研究はブリヂストンが最初に事業を興した1930年代から行っています。さらに、天然ゴムよりも優れた材料を作りたいという想いがベースにある研究も当時から進めていました。
当社グループは伝統的に材料技術のDNAや人材を有しており、それがいかに大事かも分かっています。この点は我々の強みと言えます」