未来を想像する――モビリティを支える“将来のタイヤ技術”

ミシュラン「VISION」はミシュランの信念、ユーザーのメリットを必ず実現

 ミシュランは2017年にコンセプトタイヤ「VISION」(ビジョン)を発表した。ユーザーの使い勝手や、ドライバーが抱える課題を解決する技術として期待されるこのタイヤには4つの特徴がある。

ミシュランの「VISION」
「VISION」

 1つは、生物由来の材料などを活用することだ。現在のタイヤに多く使用されている石油由来の素材への依存低減や、微生物などにより生分解可能な材料の利用を目指している。

 また、限りある資源の天然ゴムを、今後も従来通り使用し続けることは困難になると予測される中、「ビジョン」をはじめとする将来のタイヤのトレッドにゴム以外の素材を活用する可能性も模索している。日本ミシュランタイヤの東中一之取締役副社長兼研究開発本部本部長は「ゴムを使わないといけないという既成概念を持つ研究者には『なぜゴムでないといけないのか』と問い掛けている」と話す。

 さらに、現状では廃タイヤのゴムを加工して再びタイヤに使用することは敬遠されているが、「できるだけ再び使いやすくなるように研究する必要はある」と語る。

 こうしたコンセプトは、同社が2018年に発表した、持続可能なモビリティ社会を実現する長期戦略に関連している。2048年までにタイヤの原材料の80%を持続可能な材質に置き換え、全てのタイヤのリサイクル率100%を達成するという目標とともに、「ビジョン」は“ミシュランの企業精神であり象徴”として技術開発の大きな方針となっている。

東中一之取締役副社長
東中一之取締役副社長

 「ビジョン」の2つ目の特徴は3Dプリンターの活用だ。これにより、ドライバーは路面状況などに応じて最適なトレッド形状を選択することが可能となる。ただ、ユーザーが思うままに描いたトレッドの場合は性能の発揮が難しいため、あくまで“選択肢がある”という形にはなる。イメージするのは「冬用や夏用のタイヤという区別が不要になる」といった将来の姿だ。

 また、トレッドが印刷によって取替可能となる一方、ホイールにあたる部分は継続して使用することができる。この提案は、同社が掲げる「4R」の考え方に即したものだ。

 同社の4Rは、CO2排出量などの削減(Reduce)やタイヤの再使用(Reuse)、使用済みタイヤのリサイクル(Recycle)、再生可能資源を活用するリニュー(Renew)の4項目を指す。これらの環境への配慮を図ったコンセプトについて、東中副社長は「車を運転する方たちだけではなく世界中の人々にメリットがある」と自信を示す。

 優れた環境性能のほかにも「ビジョン」は、ユーザーに一層の利便性や安全性を提供するためにイノベーションを推進している。それが特徴の3つ目と4つ目として掲げるエアレスとコネクト技術だ。

 一般的なタイヤでは“荷重を支える”という働きに空気が役立っているため、「ビジョン」の形を考案する際は「既成概念を捨て一から“荷重を支えて乗り物を動かす”という目標に向かった」という。

 そうして生まれた「ビジョン」のエアレス構造は、カーシェアリングや自動運転技術が普及したクルマ社会において、メンテナンスフリーといった新たな価値につながる可能性を秘めている。

 一方で、東中副社長は「タイヤは唯一路面に接している部分であるため、そこから得られる情報は大事なのではないか」として、コネクト技術を活用して自動運転技術などと連携していく姿勢を明らかにした。現時点では“車両の開発者やデータの活用者がどのようなデータを必要としているのか”という考えに立って開発が進められている。

 「『ビジョン』は、研究者の拠り所や会社の大きな方針となっている」――東中副社長はミシュランが次世代の技術開発に取り組む意義をこのように話し、「ユーザーにとって価値があると考えるコンセプトは実現させなければいけない」と決意を示した。


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