さらに環境面でもこだわりをみせる。「エアフリーコンセプト」は、トレッド部のゴムも含めて100%リサイクル可能な材質を採用している。スポーク部に使用している熱可塑性樹脂は、加熱すると溶解して様々な形に加工ができ、常温に戻ると硬化する合成樹脂のこと。ペットボトルなど一般に広く使用されており、成形・リサイクルが容易な材料だ。
製造時も金型さえ作れば、成形工程は非常にシンプルなものになる。従って将来、製品化・量産化する場合に原材料や製造コストが大きな障害となる可能性は低い。付加価値のある商品ではあるが、消費者が手の出ない高価格帯にはならない見込みだ。
またメンテナンス面では、外傷や摩耗のチェックは通常のタイヤと同様に行う必要があるが、「樹脂だからといって特別なメンテナンスは必要ない」
課題は“耐久性”
ユーザーとしては市販化の時期が気になるが、「数年後を目途に実用化できるかどうかの判断をしたい」としている。
現段階でも電動カート用タイヤとして走行するには全く問題ないレベルまで完成している。だが、長距離・長時間の使用が前提となる通常タイヤと同じレベルまで達するには、今後も多くの試験・評価が必要になる。その中で特に重要視しているのが「耐久性」だ。
「課題はまだまだあると思います。超高温あるいは氷点下で使用しても問題ないかなど時間をかけて耐久性をテストしていきます。これまでにも各種タイヤを開発してきましたが、あくまでも空気入りタイヤ――従来のタイヤ開発の範ちゅうです。『エアフリーコンセプト』は全くコンセプトが異なりますので、見落としている部分や新たに必要な試験はないか、さまざまな視点でチェックしていく必要があります」
さらに「サイズを大きくしていった場合、扁平率との兼ね合いも含め、スポークの形状が変わる可能性もあります。通常のタイヤにも様々なバリエーションがあるように、乗り心地を良くするのか、あるいは操安性を向上するのかなど目標に対して最適な構造にしていきます」と実用化へ向け、改良の余地は大きい点を強調する。
「エアフリータイヤ」の将来像として、どのようなクルマへの採用が考えられるか。阿部フェローは「現段階ではどこまで拡大していけるかは未定ですが、まずは軽自動車用タイヤ、サイズで言えば13インチクラスまでのカテゴリーを目指す」と意気込む。
同時に軽自動車の下の規格――東京モーターショーでもコンセプトカーとして数多く出展されていた小型のシティコミューター向けも視野に入れている。
「これからの社会では、街中でちょっとした足代わりに使用する乗り物が増えてくると思います。そういったクラスにも活用していきたいと考えています。またパンクレスという観点から二輪車用タイヤとしても可能性があると思います」
東京モーターショーで初めて披露した「エアフリーコンセプト」は、斬新なコンセプトやデザインが好評で、黒山の人だかりができたほどだ。「絶対にパンクをしない」「100%リサイクル可能」という訴求ポイントに対し、想定以上の反響があったことの証しだろう。
またブースを訪れたスズキの鈴木修会長が10分以上、熱心に見ていたというように、カーメーカーも大いに興味を示した。阿部フェローもブースで説明にあたり、「多くの方と将来に向けた話ができた」と確かな手応えを感じている。
同社では「エアフリーコンセプト」技術の早期実用化を目指し、資源のリサイクルや再生可能資源の利用を拡大していく。