――電動化を含めてCASEに注目が集まっていますが、将来のタイヤ開発については。
「EV向けという観点では基本の軸は変わっていません。静粛性、耐偏摩耗性、低電費性の三本柱の更なる進化は引き続き必要だと思います。ただし、各性能はガソリン車でも求められる性能でもあるので、EVやガソリン車を問わず性能の進化を図っています。
今後、考慮すべき点となるのはシェアリングや自動運転技術です。
車が個人所有ではなく共有化され、フリート会社に納めるタイヤも増えていくと思われます。そうしたタイヤの使われ方を考えると、尖った性能があまり求められなくなっていく可能性があります。『安定して力を出す』、『滑りやすい道では“滑りやすい”というフィードバックをすぐに行う』ような、色々な方に使って頂いても不満が出ないタイヤの需要が増えていくのではないでしょうか。
また、自動運転車は制限速度を守り、操作もマイルドな設定になると想定されます。そうすると、それほど耐偏摩耗性を重視した商品や、独アウトバーンでの高速走行などにも対応するようなタイヤは必要なくなるかもしれません。
一方で、滑りやすい路面や荒い道路など、路面の状況が変わっても、車両側の制御に対して安定した応答を示すことができるタイヤが求められる可能性があります。
もし、道路に人が飛び出してきた場合、停まらなければならない距離は自動でも手動でも変わりません。ただし人間が運転する限りは、当人のスキルにもよりますが、路面や周辺状況に応じて瞬間的に判断した操作をすると思います。
それが機械に変わってレーダーなどで検知する時、ブレーキ力は数ヘルツという頻度できめ細かに制御されるかもしれません。そのような操作に対しても、タイヤはきちんと力を発揮しなければならないのです。こういった特性は今までのタイヤと異なるものです」
「将来も、例えばスポーティな運転が好きで、『POTENZA』(ポテンザ)を好んで選んで頂けるようなお客様もいらっしゃると思います。そういった方々に向けたタイヤは、今まで通り開発しなければなりません。それに加えて、シェアリングカーや自動運転車に乗られる方に向けて、別の軸でタイヤの仕様を考える必要があります。
いつ頃そうした社会が到達するのかという見通しは、情報ソースによって異なっています。『意外とすぐやって来る』という考えや『まだまだ先の話だ』という予測を意識しながら、当社の中でどういった技術をどのように作っていくべきか、検討しているところです」