タイヤ原料の約30%を占める天然ゴムは、環境破壊や病害など多くのリスクを抱える。一方、合成ゴムは化石資源由来のため、将来的な枯渇のリスクや二酸化炭素排出の課題がある――こうした点を踏まえ、横浜ゴムはタイヤ材料の様々な研究開発を推進している。「未来への思いやり」をCSRスローガンに掲げる同社では、どのような方針のもと材料開発を行っているのか。取締役常務執行役員の野呂政樹氏に現在の取り組みと将来の展望を聞いた。
原料の多様性や循環型の確立を
――次世代材料の研究開発に取り組む背景を教えて下さい。
「世の中では環境に配慮した取り組みがいくつかありますが、その一つに“持続可能性”がキーワードのSDGs(持続可能な開発目標)が挙げられます。
一方、横浜ゴムでは中期経営計画で『未来への思いやり』をCSRスローガンに掲げ、非常に大切にしています。併せて、世界各地でその土地に根差した企業活動を展開する“世界企業”を目指しており、これらは我々の基本方針です。
そうした中で、当社では“環境性能”と“持続可能性”という2つの考え方に基づいて、材料の研究開発を行っています。
1998年にはエコタイヤ『DNA』を発表しましたが、日本のタイヤメーカーでこうした製品を最初に発表したのは当社であると理解しています。当時、低燃費性能は特に評価される点ではありませんでしたが、その頃から“環境”“燃費”を念頭に取り組もうとする動きが当社にはあったのです。そうした考えは、会社の中で脈々と続いていたと思います。
低燃費タイヤでは原材料技術が重要ですが、現在は、いかに低燃費に貢献する原材料を開発するかということに、“持続可能性”が加わりました。『石油資源に依存しないで作ろう』などとステージは変わりましたが、スタート地点から“環境”の観点は変わりません」
――横浜ゴムは合成ゴムの研究を進められています。植物系資源を活用し、大気中の二酸化炭素を増やさないカーボンニュートラルの実現が期待できます。
「昨年は、バイオマス(生物資源)の糖からイソプレンを生成する新技術を発表しました。イソプレンはタイヤに配合する合成ゴムのポリイソプレンゴムの原料として使用するものです。
イソプレンを多く生成することが難しかったのですが、ある程度満足できるレベルに達しました。13年からは日本ゼオンと理化学研究所にも参加して頂くなど、少しずつステージを変えて進めています。
他のメーカーでも、方法は異なっていたとしても、バイオマスからゴムを作ろうとする研究の流れは同じではないかなと思います。当社では糖からイソプレンを生成する手法を取っていますが、その他の方法も検討するため、社内で、または他の企業とも研究を続けています。
2020年代前半には、バイオマス由来のイソプレンを活用したタイヤの試作品を実現することは可能かもしれませんが、量産化は20年代後半になると思います。
現在は、イソプレンを上手く生成する手法が見つかったところで、今後は工業化の実験段階に移り、プラントでテストを行います。それがある程度順調に進むと本格的なプラント建設に進みますが、この段階はまだ見えていません。
東京工業大学とはバイオマスからブタジエンを合成する触媒の開発に成功していますが、まだこちらは工業化の試作段階の少し手前にあります」
――持続可能性についてどのように考えますか。
「石油資源への依存を少なくするか、使用する石油資源を極小にしてリサイクルを続け循環させる2つの方向が考えられます。
リサイクルでイメージするのは、廃タイヤなどを粉砕してもう一度タイヤに使うことです。これは各社ばらつきがあるとしても既に行われており、必ず何%かはタイヤに使用するのが一般的です。廃タイヤから作るほかにも様々なゴム粉があり、全く同じ部材には戻らなくても、タイヤの色々な性能を考慮して活用する努力を行っています。
この取り組みは今後も増やしていきたいですし、ゴム粉のまま再利用する以外の方法も検討しています」
「脱石油にこだわることと循環型を実現することは必ずしも一致しないと思います。石油資源も非石油資源もそのまま捨ててしまっては結局資源としては減っていくことになります。地球上の資源をいかにバランスよく活用して循環させていくのかが重要です。例えば単純に『ブタジエンは全てバイオマス由来に移行しよう』というのは適切ではないと思います。
石油やバイオマスのほかに、天然ゴムもテーマの一つです。天然ゴムに関してはロシアタンポポの研究などが進められていますが、これはパラゴムノキ由来の天然ゴム以外の選択肢を増やしていくための取り組みだと思います」
「その次にキーワードになるのは、できる限り材料を使わないようにすること――タイヤの技術でいうと、耐摩耗性能をいかに高めるかに関係します。
タイヤは走行するとどうしても摩耗してしまいますが、耐摩耗性能を高めることで、省資源化に寄与することができます。
どうやって資源を作り出していくか、その次はいかに材料の使用量を減らすか、最後にどうやって再利用するのか――このようなことを全て行っていかないと、将来的には成り立たなくなっていくと考えます」