持続可能性の観点でタイヤ材料の開発を推進
――天然ゴムに関する取り組みは。
「現在、バイオマスから合成ゴムの生成が進められていますが、数年後に材料が完全に入れ替わるのではなく、徐々に増えていくものと考えられます。
おそらく、私たちが生きている間に天然ゴムを全く利用しなくなることはなく、ある程度は使わなければなりません。そうすると、どのようにして供給源を確保するかが問題となります。
過去にパラゴムノキを育てていた地域では葉枯病が流行するなど生産を脅かすリスクもありましたので、継続的に育てていくことができる環境をいかに作るかが大切です。今は、病気耐性などを共同研究で調査しています。
将来的には、遺伝子操作を行う段階が可能性としてはあるかもしれません。ただ、当社の領域には含まれない取り組みでもあるので、あくまで発展形として考えられます。
こうした活動の多くは、当社が2009年、タイに天然ゴム加工会社のY.T.ラバーを設立した後に始まりました。それ以前も様々な取り組みがありましたが、天然ゴムの工場を設立して、より地域に根差した活動が展開できるようになりました」
――環境性能に優れたタイヤは、ある意味では“嗜好品”にもなり得ますか。
「お客様が商品を選ぶ視点として環境に配慮しているかどうかというポイントは実際にあります。一つは燃費が良いタイヤを購入される方、もう一つが、原料や製造工程も含めて環境に優しい企業のタイヤを選ばれる方です。
ただ、環境性能が商品価格にどこまで反映できるのかは難しい部分です。ハイブリッド車などが少し割高でも購入されているように、より環境への配慮を明確に打ち出した製品が登場すると、少々高価でも購買に繋がるかもしれません。ですが、そういったことを実現するレベルでセンセーショナルなタイヤを出せていないのかなと思います。
もっとも、低燃費タイヤがそうであるように、環境への配慮は商品力に繋がります。完全に脱石油資源という訳ではなくても、バイオテクノロジーを活用するタイヤがもし完成したら、商品の値段が変わる可能性はあると考えられます。
それは各社競争であり、世の中の状況によってはペースを上げていかなければなりません。そうすると、タイヤメーカーだけではなく原料メーカーも同じ動きになり、さらに競争が激化して開発が加速する可能性もありますし、実際今はそうした予感もあります。
環境への取り組みは政府が主導して推進しているものでもあり、予算を出すなどして研究しやすい環境を作っています。今後、従来とは違ったアイデアが出てきて、ますます進展していく可能性はありますね」
――将来の展望は。
「SDGsもそうですが、色々なテーマで“2030年までに”がキーワードになっていますので、その段階で様々な技術が実現していると想定されます。
そう考えると、20年代後半には順番に色々な成果が出てくるのではないでしょうか。当社でも20年代後半に、今研究しているイソプレンを活用したタイヤが認知され、購入頂けるような状況を目指していきます。
可能な限り早く実現したいですが、ハードルが高いのも事実です。材料が安定供給できるようになるにはある程度の開発費が必要なので、国全体の動きも重要になると思います。原料の研究では、実際にパイロット生産をしようとすると試験管での実験のように上手くいかないことも多々あるのです。その課題は自分たちの中で消化しきれていない部分でもあります。
世の中全体で環境に配慮するような流れに向かうこと、そうした雰囲気が強まることも重要かもしれません。我々も営利活動を行っていますので、商品が仮に高価でも、環境に配慮した製品であれば購入頂けるような雰囲気になると、競争上、研究開発のペースを早めていかなければならなくなります。なかなか自分たちだけでは対処できない問題もありますが、一生懸命進めているところです」
「当社は20年近く前、利益を上げるためではなく、将来的な方向性を示すものとして『DNA』というタイヤを発売しました。環境に配慮した技術開発はなかなか価格に反映できなくても、会社としてしっかりと取り組む必要性を感じていたのです。
利益だけを追求するのではなく、将来を見据えて少しずつでも行動していきたいですし、今後は循環を考慮した取り組みもスタートさせたいと考えています」