2010年に車両総重量が12トン以上の大型車のホイールが日本特有の「JIS方式」から国際規格である「新・ISO方式」に切り替わった。現在は大型車で新・ISO方式が半数近くを占めるようになり、タイヤ販売店などでは適切な作業が浸透してきているという。一方で、近年は大型車の車輪脱落事故が増加傾向にあり、またタイヤの空気圧不足の状態のまま使用し続けているドライバーの割合も拡大している。様々なスキルが求められるタイヤ整備の現場で、事故の未然防止や安全なクルマ社会の実現に向けて求められることは――日本自動車タイヤ協会(JATMA)タイヤ検査・事故防止部会の菊地俊夫部会長に現状と展望を聞いた。
新・ISOが4~5割に
――新・ISOが採用されてから9年が経過しました。タイヤ整備の現場では作業時の注意点が浸透してきましたか。
「タイヤ販売店の方々とお話をしますと、現在は入庫する車両の約4割から半数近くが新・ISO方式となっており、市場で主流となりつつあるようです。
こうした中、現場の作業員の方はISO方式とJIS方式の違いをしっかりと認識した上で、注意深く作業を行うという考え方が浸透してきています。少なくとも新・ISOが採用される以前と比べると、現場の適正作業への意識は非常に高くなってきました。
さらに、ホイールのISO化の前には、車両ごとに規定のトルクで締め付けることが国土交通省の告示で求められ、『きちんと規定のトルクで締め付けよう』という認識が一般化されてきたと感じています。
新・ISOが採用された際、JATMAとして安全な整備作業を啓発するための資料を作成しましたが、その当時、特に懸念していたことが2点ありました。
1つはバルブの取り付け位置です。ISO方式には新・ISOと従来・ISOの2種類がありますが取り付け位置がそれぞれ異なります。当時はドラムブレーキが一般的でしたが、従来・ISO方式のホイールはバルブがホイールディスクの内側から出ています。
一方で新・ISO方式のホイールでは、将来のディスクブレーキの普及を考慮してバルブアウトセットタイプが採用されました。つまり、従来・ISO方式のホイールを新・ISO方式のディスクブレーキ車両に装着する際にはバルブが干渉してしまう可能性がありました。
この点に関しては、作業時の啓発を行ってきたことで大きな問題になっていません。その後、新・ISO方式の車両が増えてきましたし、『車両が入庫してお客様が持ち込んできたホイールを装着してみたら従来・ISO方式のホイールだった』などというトラブルはほぼ無くなってきました。
2つ目の懸念事項としてPCDの問題がありました。19.5インチのPCDはJIS方式が285mm、新・ISOは275mmと、わずか10mmしか違いがないため、新・ISO方式の車両に誤ってJIS方式のホイールを装着しようとすると無理やりにでもセットできてしまうのですね。JISホイールを誤装着すると十分な締め付け力が得られず、ホイールの亀裂や車輪脱落事故の原因となってしまいます。
当時はJISと従来・ISO、新・ISOの3種類のホイールが混在していたため、販売店の方にはきちんとホイールの種類を確認してから作業をして頂くように啓発を行ってきました。見た目の違いで判別ができますのでご理解には時間がかからなかったようです。
今現在、我々が懸念していたような作業面でのトラブルは聞いていません。車両自体もJISとISOの入れ替わりが進行し、またJIS方式の車両は古いものが多くなっているため、古い車両が入庫した際には販売店側で注意深く作業をして頂けているようです。
ただ、スペアタイヤでは引き続き注意が必要となるケースがあります。新車で購入した車両のスペアには新品タイヤが付いていますが、保管されているタイヤと入れ替える場合、『車両は新・ISO、でもホイールはJISだった』という事例がありますので、お客様に対しても啓発を続けていくことが事故の未然防止につながるのではないでしょうか」
――近年は大型車の車輪脱落事故が増加傾向にあります。
「国土交通省が取りまとめている統計によると、車輪脱落事故は増えています。2018年4月には緊急対策が発表され、我々も国土交通省に協力して啓発活動を行ってきました。冬季に事故が多く発生しており、販売店にとっては今がまさに冬の繁忙期ですし、作業が集中するためリスクの度合いが高まるのではないでしょうか。
車輪の脱落には大きく2つの種類があります。一つは作業時に締め付けトルクが不足しているケースで、もう一つは使用している中で脱落してしまったという事故です。つまり作業をしてすぐに脱落するケースと、一定期間走行してから脱落してしまうケースがあり、タイヤ業界としてきちんと対策と啓発を行っていくことが必要です。
『きちんとトルクで締めましょう』――口で言うのは簡単です。ただ、色々な方からお話を伺うと、『ISOホイールが採用されてから9年が経過し、車歴が長い車両ではナットやボルトにサビが発生したり劣化が進んでいたりする』という事例を聞いています。
新品のホイールであれば、きちんと締めれば問題はありませんが、サビや汚れがあった場合は、きちんと清掃を行い、軸力を維持できる状態にすることが重要になってきます。『規定のトルクで確実に締め付ける』という言葉の裏には作業者の方々の一層の注意が求められるのです。
その一方で、運送会社など事業者側にご理解を深めて頂くことも必要であり、やはり増し締めを行うことが重要になります。国土交通省からは『50~100km走行後を目安にきちんとした増し締めを』と示されています。急にナットが緩むわけではなく、必ずその前に兆候が出ています。そういった意味からも点検ハンマーなどを用いて日常点検を行い、適正なトルクで増し締めすることが大事になってきます」