横浜ゴムが昨年から国内市場向けにウルトラワイドベースタイヤ「902L」を本格投入した。この製品は「ワイドシングルタイヤ」などと呼ばれており、国内での導入事例は少ない反面、強力なライバルがしのぎを削るカテゴリーでもある。「準備を進め、満を持して投入した」と話し、「絶対に勝ちたい」と意欲を示す横浜ゴムTBR事業部事業部長の湯本光行理事に狙いを聞いた。
サービス体制がより重要に
――横浜ゴムは北米市場で以前からウルトラワイドベースタイヤを販売していますが、昨年9月に「902L」を国内市場へ導入した背景を教えてください。
「国内では2009年にバス用のウルトラワイドベースタイヤを発売したことがありました。ただ、ハイブリッドバス向けの製品で需要はそれほど伸びませんでした。その後、北米でウルトラワイドベースタイヤを上市しました。生産を担う三重工場への増産投資も進め、これまでに相当量を販売してきています。
一方で日本国内への再導入も検討していました。2016年に横浜市で開催した『ジャパントラックショー』へ参考出品という形で展示し、そのタイミングでも発売は可能でしたが、マーケットの醸成感や販売側の準備があり、タイミングを計ってきたのです。
今回、発売に至ったのにはいくつかの要因があります。そもそも商品があるかどうか――これは2016年段階で用意ができていました。
重要なことは販売する側できちんとサービスが提供できなければならないことです。シングルタイヤの交換作業、万が一トラブルが起きた際に24時間以内に対応可能なサポート体制、在庫も必要になります。
また、横浜ゴムが発売するとなると、スタッドレスタイヤの準備も必要です。それらの目処が全て立ってきたことで今回の発売に至りました。もちろんリトレッドを行う準備も進めています。新品タイヤの開発と販売、サービスの提供、リトレッドまで全て責任を持つことが重要です。
サービス体制に関してもう少し詳しくお話ししますと、ヨコハマの看板を掲げている販売店の方々がワイドシングルタイヤの交換をできる能力を持っていること、また販売店様からオーダーを受けて当社が即時のデリバリー対応ができること――この2つは絶対条件だと思っています。我々のYNS(ヨコハマタイヤ・ネットワークサービス)は、現在全国約3900の拠点があり、ここを通じてタイヤのトラブルが起きた際のサービスを供給することもできます」
――国内でのワイドシングルタイヤの需要はどう見ていますか。
「国内では日本ミシュランタイヤが以前から販売しており、市場ではミシュラン製品が多いのではないかと認識しています。ただ、商品の特性上お客様がある程度限定されていることから、急激に需要が増えていくというイメージは持っていません。
当社の狙いは、元々ヨコハマを採用していてワイドシングルタイヤの導入を考えているお客様、シングル化するなら『ヨコハマタイヤを使いたい』というお客様です」
シングル化のメリットは――
――「902L」の製品特徴について教えてください。
「元々日本で実績のあった低燃費スタッドレスタイヤから派生したパターンを採用しています。北米で2012年にこの『902L』をベースにした製品を投入したところ、トラクションも高く、摩耗も良いと高い評価を得ました。
タイヤは走行するとショルダー部が成長します。特に幅が広いタイヤはせり上がってくる傾向が強く、接地形状が悪化してしまいます。
それに対して当社は『SpiraLoop』(スパイラループ)という独自のベルト構造を採用しています。この技術は外径の成長を抑制するもので、幅が広いタイヤの偏摩耗を抑制することが可能となっています。
また、大きなメリットとして積載量の増加が挙げられます。近年は車両自体に様々なデバイスが装着され、重量が重くなることもあります。加えて、運送業界でドライバー不足も深刻化しています。そうすると輸送効率を高める――言い換えると積載量をいかに大きくするかが非常に重要になってきます。
『902L』は1軸当たり約85kgの軽量化が可能となることから、例えば後輪2軸の大型トラックでは、約170kgの軽量化となり、その分積載量を増やすことができます。タイヤの転がり抵抗も低いため、燃料コストも下げられますので、輸送効率を高めるためにはベストなタイヤだと思っています。
ただし、このタイヤを本当に有効活用するためには新車段階から設計して頂いたほうが良いと考えています。北米ではウルトラワイドベースタイヤに最適な設計をしたトレーラーなどもありますので、日本でもそうした車両が出てくれば、さらにメリットが発揮できると考えています」
――コスト面ではいかがですか。
「新品タイヤの価格はタイヤを2本買うより若干高くなりますが、積載量の増加や燃費などを考慮すれば、回収は容易にできると試算しています。
国内では専用リムやアルミホイールなど初期コストがネックになっていますが、これから標準装着やオプション採用が増えてくれば、初期コストが下がっていく可能性はあると思っています」