国内で過去に名車と呼ばれたヒストリックカー、クラシックカーの人気がじわり高まっている。数年前から複数の自動車メーカーが部品の復刻販売や保守サービスを始め、「愛車に乗り続けたい」「昔の乗り味をもう一度」という愛好家のニーズに応えている。それに合わせて、タイヤメーカーでも横浜ゴムやミシュランが旧車向けの販売を積極化している。横浜ゴム消費財製品企画部の大前貴睦副部長と同部製品企画1グループの五来大輔主任、また日本ミシュランタイヤの小田島広明ダイレクター、クラシックタイヤ担当の鈴木善子氏にこの事業に取り組む意義を聞いた。
横浜ゴム 偉大な“遺産”継続して育てる
――2017年にヒストリックカー向けタイヤ事業に参入した理由は。
「2017年は当社の創立100周年でしたが、その節目となる商品を検討したらどうかという考えがありました。振り返りますと、当社の成長を牽引した歴史的な商品がいくつかあり、それらは偉大な“ヘリテージ(遺産)”ですので、復刻したらどうかというアイデアが出ました。
一方でヒストリックカーを所有しているお客様から『自分のクルマに合ったタイヤが無くて困っている』『当時の商品を復刻して欲しい』という声も同時に聞いていました。ヒストリックカー市場が盛り上がっており、ここにビジネスチャンスがあるのではないかと考え、ヒストリックカー向けタイヤとして過去のへリテージ商品を復刻する企画の検討に入ったのです。
こうした経緯があり、1981年に発売した『ADVAN HF Type D』(アドバン・エイチエフ・タイプディー)を2017年10月に復刻発売し、その後もラインアップを拡充しています」
――ヒストリックカー市場の動向はどう見ていますか。
「市場として大きいのは欧米そして日本です。日本車の旧車では日産自動車のスカイライン『ハコスカ』などが有名ですが、1970年代~80年代のそういった車両が現在でも1万台くらいは登録されているのではないかと思います。また、ポルシェの旧型車も残存率が高く、半数以上は維持されているそうです。全体のボリュームは掴めていませんが、固定客は一定数いるのではないかと思います。
昨今はタイヤのサイズが大径化したり、偏平率が低くなったりと、サイズのトレンドが変わってきたこともあり、ヒストリックカーに装着できるタイヤは少なくなってきています。こうした中、当社がヒストリックカー向けタイヤを発売したことはユーザーから評価を得ています」
――このカテゴリーで横浜ゴムの強みは。
「我々の強みは、国産ヒストリックカー向けタイヤです。横浜ゴムは日本市場でヘリテージを築いてきた歴史があります。国産車には当時から多くの新車に装着されてきましたし、『ADVAN』ブランドをはじめ、長い間積極的にモータースポーツに取り組んできましたので。
一方、国産車向けヒストリックタイヤという商品がこれまでなかったため、当社の強みを最大限に活かすことが可能と考えています。例えば『ADVAN HF Type D』などが国産ヒストリックカーのお客様から大変好評を頂いており、手応えを感じています」
――事業開始から3年を迎えての評価は。
「手応えは非常に良いですね。『横浜ゴムがヒストリックカータイヤを発売してくれて嬉しい』という応援の声も多く、一定の評価を頂いていると思っています。
ヒストリックカーオーナーの方々にもっとご満足頂けるために、まだまだやれることはあると思っています。
クルマによって提案できるタイヤは異なりますし、お客様がヒストリックカーをどう乗られているかも重要です。『当時の純正スタイルのままが良い』という方もいれば、レストアとモディファイを掛け合わせて“レストモッド”と呼ばれる造語がありますが 現代風にアレンジし、当時より快適性を高めている方もいます。さらに競技向けに使用されている方など、ヒストリックカーとの付き合い方に合わせた商品が提供できればと思っています。
当社は『クラシック』『クラシック・スポーツ』『クラシック・コンペティション』の3つのカテゴリーに分けてラインアップを揃えてきました。
2017年に『ADVAN HF Type D』を発売した頃は市場規模やどういった商品が求められているのか掴みきれていなかった面もありましたが、積極的にヒストリックカーのイベントへ出展したり、オーナーズクラブのようなミーティングに顔を出したりと、使用されている方の声を直接聞いて回り、『こういった商品が欲しい』という要望や『タイヤサイズが不足している』など、生の声を聞いて商品の拡充につなげるようにしています。
欧州で当社のヒストリックカー向けタイヤの展開は、日本ほどの認知度はまだまだありません。ただ、新車装着されていたポルシェやロータス、市販用タイヤで評価が高い『クラシックミニ』などで多くの支持を頂いています。
例えば、SNSなどで投稿写真を見ますと、『ミニ』には、『A-008』(日本名:ADVAN HF Type D)、『A539』などが多くの車に装着されています」
――中期的な展望を。
「ヒストリックカー向けタイヤのビジネスは短期的に大きな収益を得られるものではなく、継続していけることが大事だと考えています。そのためにビジネスの観点からは、我々の商品をより多く装着して頂けるように努力していきますし、今後もお客様の声をよく聞いて事業を育てていきたいと思います。
ヒストリックカーと言っても様々ありますので、我々の強みを評価して頂ける部分、あるいはお客様が困っていらっしゃる課題を把握して、このビジネスを育てていきたいと思います」