大型車の車輪脱落事故防止に向けて「危険性を認識し、適切な作業を」

 大型車のホイール・ボルト折損等による車輪脱落事故は2019年度に112件発生し、統計史上最多となった。事故発生の原因には、タイヤ交換作業や保守管理の不備が指摘されている。車輪脱落は悲惨な事故につながる危険性があるものの、関係者が適切に作業・管理すれば防げる可能性も高い。国土交通省自動車局整備課長の佐橋真人氏に、この事故の発生状況やどのようなタイヤ交換および管理が求められているのか話を聞いた。

 ――大型車の車輪脱落事故の発生状況は。

 「2019年度は事故件数が112件と、前年よりも31件増加しました。また例年と同様に冬季の10~2月に集中し、寒冷地、特に同年度は東北地区で多く発生しています。

 事故調査からは、タイヤの脱着作業をしてから1カ月以内に多く発生したことが分かっています。さらに、冬用タイヤへの交換は11月に集中しますが、事故を起こした車を調べると同月に交換した車両が多いことも特徴です」

 ――なぜ冬用タイヤへの交換時期に事故が多いのでしょうか。

 「降雪の予報が出ると急いで交換される方も多く、交換作業がぐっと集中することが原因と考えられます。短期間に多くの車両のタイヤ交換をしなければならないため、実施すべき作業を省くなど正しい作業が行われていない可能性があると推定しています」

 ――国交省では事故防止に向け、「2020年度緊急対策」をまとめました。

佐橋真人課長
佐橋真人課長

 「事故件数が非常に増加していますので、まずはすぐにできるものを緊急対策として打ち、各団体に通達しました。業界ごとに取り組んでいただくものになります。

 これまでにも呼び掛けていた4つのポイント  ①ホイール・ナットの規定トルクでの確実な締め付け、②タイヤ交換後、50~100km走行後の増し締め、③運行前におけるホイールの取り付け状態の確認、④ホイールに適したボルトやナットの使用の実施に加えて、事故分析するとトラック事業者が自身の事業所内でタイヤ交換した場合に事故が多く発生していたため、トラック事業者には次の2点もお願いしています。

 まず1つ目が、タイヤ交換時に作業管理表を使用し、正しいタイヤ交換作業を実施していただくことです。このタイヤ交換作業管理表は、我々としては初めて作成したもので、20年10月30日に全日本トラック協会などの関係団体を通じて周知・指導しました。事業者の中には交換作業の方法を把握しきれていない方もいると思うので、目安としてぜひ使用してほしいです。

 2点目に、ホイール・ナットにマーキングをするなどして、日常点検でナットの緩みが容易に分かるようにする取り組みも要請しています。

 また、タイヤ販売事業者の方々には、①インパクトレンチの使用時には締め過ぎに注意し、最後にトルクレンチを使用して規定トルクで締め付けること、②ホイールに適したボルト、ナットを使用することを呼び掛けています。

 さらに、③錆びたボルト、ナット、ディスクホイールでは適切な締め付け力が得られないため錆の除去を行うこと。また、錆が著しい場合は交換に努めること、④タイヤ交換作業表を使用した正しい交換作業を実施することもお願いしています」

 ――国交省は制度化を検討する抜本的対策も示しています。

 「1つはホイール・ボルト、ナットの交換目安の例示です。調査を進めると、ボルト、ナットが新品の状態から4年以上たった車両で事故が多く発生していると分かったためです。

 また、タイヤ交換作業手順等の明確化、タイヤ交換作業の管理徹底と整備管理者の管理能力向上、事故防止対策の教育指導の充実も抜本的な対策として決定しています。

 この4点を制度化するのはこれからで、可能なものから順次示していきます。例えば、自動車の点検及び整備に関する手引きという告示や、整備管理者制度の運用の通達を見直す形が考えられます」

 ――こうした見直しにより何が変わりますか。また、作業管理表の使用なども義務化されるのでしょうか。

 「告示や通達になると、例えば点検がこのやり方に沿って実施されなければ処分の対象になります。また現在、タイヤ交換作業管理表は行政指導の段階ですが、今後、事故の発生状況などを見て必要に応じて制度化まで検討する可能性もあります」

 ――緊急対策の確実な実施を図り、「大型車の車輪脱落事故防止キャンペーン」を開始しています。

インジケーター
インジケーターをナットに装着すると、緩みが容易に分かる

 「関係団体の協力を得て、事故が集中するこの時期にキャンペーンを実施しています。

 中身の1つは、国の職員が街頭検査や営業所を訪問し、運送事業者に事故防止対策の周知や指導を行うことです。特に年末年始の輸送安全総点検を実施する中でも、大型車の車輪脱落事故に関して適正な点検をお願いしています。

 2つ目として、ホイール・ナットの緩みがひと目で分かるマーキングなどの活用を推進するため、事故件数の多いトラック事業者を中心にインジケーターを無料配布しています。ナットにはめることで緩みが目で見て分かるもので、この取り組みは今年から始めました。

 また、運送事業者が大型車のホイール・ナットの緩みを総点検する取り組みを進め、タイヤ販売事業者の方には緊急対策でまとめた4点をお願いしています。

 さらに、今回はこの事故の危険性をより知っていただくため、啓発のビデオを作成しました。タイヤが外れてしまうとどのような危険があるのかが分かるものとなっており、トラック事業者やタイヤ販売事業者の方を含め広く見ていただきたいです。

 過去には死亡事故に至ってしまったケースもあります。その危険性を可視化し、見ていただくことで周知できるのではないかと考えています」

 ――事故が起きていない事業者に特徴はありますか。

 「1つはタイヤ交換作業時に管理表のようなものを使い、正確に管理されていることではないでしょうか。また、増し締めもきちんと実施されているのだと思います。

 今回の調査で分かったことですが、ホイール・ボルト、ナットの錆を落としたり、油を塗ったりする作業も非常に重要です。錆が付いた状態でいくら規定トルクで締めてもきちんとはまらないですから、ここを怠っていないのだと考えられます。

 そのため、タイヤ販売事業者の方には、基本的な作業を行った上で、規定トルクで締め付けていただくことを改めてお願いしたいです」

 ――事故防止に向け、関係者に何を呼び掛けますか。

 「大型車のタイヤは非常に重たく、脱落すると死亡事故にも至る危険性が十分に高いものです。我々としても危機感をもって事故防止に取り組んでいます。タイヤ販売事業者の方を含めてタイヤ交換に携わる方々にこの危険性を十分に認識していただき、適切な作業に取り組んでいただきたいです。

 皆が適切に取り組めば防ぐことのできる事故だと思いますので、タイヤ販売事業者やトラック事業者、運転手の方々と協力し、この事故を撲滅していきたいです」


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