ブリヂストンの「サステナビリティビジネス構想」は、安心・安全な移動を支えながら、CO2など温室効果ガスの排出量実質ゼロを意味するカーボンニュートラルへの貢献を目指したもの。CO2排出量の削減や資源の循環など、サステナビリティ(持続可能性)を掲げる同構想で推進する取り組みや、その将来像をGサステナビリティ推進部長の稲継明宏氏に聞いた。
社会やお客様と共に持続可能に
ブリヂストンは昨年12月、資源循環やCO2排出量の削減、さらにはカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを、同社のビジネスと連動させる「サステナビリティビジネス構想」を公表した。
稲継氏によると、この構想の背景には「当社のコア事業であるタイヤ事業と、これをベースにした独自のソリューション事業を通じて、社会・顧客価値の提供を両立する」という考えがあるそうだ。
その上で、「価値を創造することでいかに競争優位を獲得し、社会やお客様と共に持続可能になっていくのか――こうした意識で様々な取り組みを進めている」と語る。
タイヤ事業では、2019年に発表した新技術「Enliten」(エンライトン)が「当社のサステナビリティを体現する商品の一つ」という。同技術は軽量化に加えCO2排出量の削減にも寄与するため、顧客価値を向上させながら社会価値を提供することにも繋がり、エコピアに続く次世代の環境対応商品に位置付けられている。
また日本のソリューション事業では、新品タイヤやメンテナンス、リトレッドを組み合わせたサービスとして、運送会社などにTPP(トータルパッケージプラン)を展開。リトレッドによって資源の有効活用やCO2排出量削減に貢献しながら、経済性の向上にも寄与し、安心・安全な運行のサポートを進める。
稲継氏は「当社とお客様、社会にとってウィン・ウィン・ウィンのビジネスモデルと言える。TPPやリトレッドを活用するソリューション事業は当社の強化ポイントだ」と強調した。
昨年12月には「Tirematics」(タイヤマティクス)を国内で本格展開すると発表した。これは、センサーを用いてタイヤの空気圧や温度を定期的にモニタリングし、その情報を基に適切なメンテナンスやリトレッドのタイミングが判断できるようになるシステムだ。
今後国内では、TPPの利用拡大を進めながら、タイヤマティクスなどのデジタルツールも活用してサービスの精度向上を推進していく方針。これにより、適切なタイヤの提案による燃費改善や、タイヤ起因のトラブルの未然防止、車両稼働の最大化によるコストの最適化といった様々な価値の提供を目指す。
さらに、ソリューション事業では欧州を中心にタイヤのサブスクリプションモデルの提供も推進している。稲継氏は「お客様に価値をお伝えし、それが認められれば、結果的にビジネスとして広がっていく」と、ソリューション事業の展望を示した。
リサイクル事業の検討も
サステナビリティビジネス構想では、これまで推進してきた原材料のリデュースやリトレッドによるリユースに加え、2030年に向けて使用済みタイヤを原材料に再生するリサイクル事業の検討もスタートした。
稲継氏は「モノを作って売る形態から、タイヤを資源として最大限活用し、原材料に戻して作り続けるという形まで持っていかなければ、今後はサステナビリティの観点で厳しくなっていくのではないか」と危機感を示す。
現在もタイヤを粉ゴムにして一部材料に用いたり、熱分解によって回収した再生カーボンブラックを活用したりしているが、「より一段高いレベルのリサイクルを目指したい」と抱負を述べる。
まずは同社の構想に対して「共感し、協働いただけるようなパートナーを見つけていきたい」とし、「スタートアップ企業など様々なパートナーと連携しながら、いかに効率よく原材料に戻していけるのかを考えていきたい」と話す。
再生ゴムや再生カーボンブラックといったリサイクル原料の利用拡大を進めるとともに、リトレッドを含めた商品ライフサイクル全体での取り組みを通じてサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に貢献する考えだ。
サステナビリティビジネス構想の発表にあわせ、ブリヂストンは2050年のカーボンニュートラル化を目指し、2030年には同社が排出するCO2総量を2011年比で50%削減する目標を掲げた。30年の目標は、昨年夏に公表した30~50%減という数値を更新したものだ。
稲継氏は「昨今、社会情勢がどんどん変化する中で、カーボンニュートラルにしっかり貢献していく必要があると経営層と議論を深めていた」とし、「50年のカーボンニュートラル化という目標を明確に示し、これに向けて取り組みを強化するという経営の意志の下で30年の目標を50%削減に一本化した」と説明する。
30年、50年に向けた積極的な目標の達成には、エネルギー利用効率の改善が求められる。たとえば生産現場ではエネルギーを見える化し、無駄の削減や高効率機器の導入、生産プロセスの効率化を進めているそうだ。
さらに、太陽光や風力などによる再生可能エネルギーの利用拡大も重要になる。欧州では同エネルギーの導入率が高く、2020年は使用電力の約8割を占める見通しだ。ただその理由は、欧州で再生可能エネルギーが広く流通し、コスト面でも採用が可能であることが大きいという。
グローバルで再生可能エネルギーの使用比率は平均4~5%に留まっているため、「いかに導入を拡大していくのか、グローバルで検討を深めている」と述べる。
中国やインド、米国の拠点では太陽光パネルを導入し、一部のエネルギーを再生可能エネルギーに切り替えているが、こうした取り組みでは全体のエネルギー使用量のうち数%しか賄うことができない。そのため稲継氏は、電力市場における再生可能エネルギーのコストや供給量を見極めながら、その使用比率を増やしていく必要があると指摘する。
その上で、「30年にCO2を50%削減する目標を達成するには、グローバル平均の再生可能エネルギーの使用比率を6~7割程度まで上げなければ難しい。我々の目標はチャレンジングなものだ」と話していた。
また、資源循環に向けた取り組みによる効果も期待する。原材料の使用量を減らすことで、モノづくりの過程におけるエネルギーの使用量、さらにCO2排出量の削減に繋がるためだ。
たとえば新品タイヤを2回リトレッドした場合は、使用を除くタイヤのライフサイクル全体におけるCO2排出量を新品タイヤ3本と比較して約半分に削減できる。
稲継氏は「リトレッドを含むソリューション事業を拡大していくことが、サーキュラーエコノミーだけでなく、カーボンニュートラルの実現に大きく効いていく」と期待を示した。
環境と成長の両立を
サステナビリティビジネス構想では、経済的な成長と、資源消費や環境負荷の増加を切り離す「デカップリング」にも取り組み、環境と成長の両立を目指す。
中でも、同社の企業価値・利益を高めながら、CO2の排出など環境への影響を減らしていくことが可能なソリューション事業は、サステナビリティビジネスにとって重要な要素になっているそうだ。
稲継氏は「サステナビリティは中長期事業戦略の中核にあり、重要な経営戦略と位置付けられている」と意気込みを示す。今年、創立90周年を迎えた同社が事業活動を通じて、どのような社会・顧客価値を持続的に提供していくのか――その姿に注目していきたい。