タイヤの回転を“エネルギー”に 住友ゴム「タイヤ内発電技術」の進化

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カテゴリー: 事業戦略, 特集

 住友ゴム工業は、関西大学の谷弘詞教授と共同で、タイヤの回転で発電し、タイヤ周辺に搭載されたセンサーなどに給電可能な発電デバイスの研究開発に取り組んでいる。また、3月にはこのデバイスを活用した「タイヤ摩耗状態および接地面形状測定方法」を確立した。電源の供給やセンシングなどに活用できるこの技術の概要を住友ゴム工業の研究企画部インテリジェント材料開発グループの杉本睦樹課長に聞いた

タイヤの回転を“エネルギー”に

 CASEやMaaSによる自動車業界の変革が起こる中、タイヤにも新たな役割が求められつつある。路面状況の検知や摩耗状態の検出といったセンサー的な機能をタイヤが持つことで、管理や点検の省力化、安全性の向上に寄与できると見込まれており、タイヤメーカー各社で開発が進められている。

タイヤ内に設置された小型化した発電デバイス
タイヤ内に設置された小型化した発電デバイス

 住友ゴムでは、タイヤの空気圧や温度を確認するために必要なTPMS(タイヤ空気圧監視システム)の電源として使用可能な発電デバイスの開発を推進してきた。同社は、柔軟性が高い発電デバイスの開発を行っていた谷教授からの呼び掛けをきっかけに2017年からタイヤ内発電装置の共同開発を始めた。

 杉本課長は「タイヤには回転や振動など様々な衝撃がある。これらを環境発電で電気に変えることで、有効活用することができる」と話す。

 環境発電は、身の回りの光や振動、熱といったわずかな環境エネルギーを集めて電力に変換する技術。すでに実用化されている例としては、太陽電池が挙げられる。

 住友ゴムが開発に取り組む発電デバイスでは、静電気の一種の摩擦帯電現象を応用した。重さ数グラム程度の平たいデバイスをタイヤの内部に貼り付ける形で装着し、内蔵された2枚のフィルムが回転により力が加わって動くことで静電気が発生する仕組みだ。

杉本睦樹課長
杉本睦樹課長

 発生する電流は小さいものの、走行中のタイヤは常に回っているため、継続的にエネルギーを回収して回路の中に蓄電でき、TPMSの電池代わりの動力源として機能する。現在使用されているボタン電池の代わりに使用することが可能で、実用化すればTPMSのバッテリーレス化も実現できる。

 現在、TPMSに内蔵された電池は交換することが難しく、電池が切れた場合はセンサーごと取り換えることが多い。タイヤ内部で発電することが可能になれば、電池の寿命を気にせず使用できるようになる。

 また、自動車タイヤ業界ではタイヤの摩耗状態や路面の状態の検知といった様々な情報の取得やその活用に向けた技術の開発が盛んになりつつある。それによってこれまでよりもタイヤ外部に情報を送る頻度が増えるため、従来の電池では容量不足になることが予想されている。

 摩擦による発電デバイスがタイヤに搭載されるようになれば、走行中はタイヤの回転により電力が発生し続けることになる。実用化により、多くの電力を消費して頻繁に通信を行う必要があるセンサーの運用面での障壁を取り除くことができそうだ。

 さらに、住友ゴムではこのデバイスをセンサーとして応用した「タイヤ摩耗状態および接地面形状測定方法」を開発している。センサー用のデバイスは1個当たり1グラム以下と発電用のデバイスよりも小型で、複数個装着する。タイヤが1回転するごとに生じる静電気の電圧の波形を観測することで、タイヤの摩耗状態を把握する仕組みになっている。

 波形からはタイヤが地面に接地している「接地長さ」を計測できる。新品時の接地長さと摩耗時の接地長さは変化するため、それぞれのデータを比較することで摩耗の進行度合いを読み取ることが可能だ。

 このセンサーをタイヤの横方向に並べて使用すると、幅方向で摩耗の状態を分析することができるようになる。この手法により、偏摩耗を検出可能になっていることが同技術の大きなポイントだ。

 摩耗の検知はトラックやバスなどの車両にニーズがある。タイヤの摩耗状態の把握が大切な運送業界に対し、摩耗状態のチェックやローテーションのタイミングの判断といった管理作業の効率化で寄与することが期待できる。

 同時に、タイヤの周方向と幅方向のデータの取得は、走行中の正確な接地形状を知ることにつながる。杉本課長は「接地形状はタイヤの燃費やグリップなどに影響のあるパラメーター。そういったデータが自動で蓄積されるため、タイヤの設計にも役立つのではないか」と説明する。

タイヤ摩耗状態の測定(イメージ)
タイヤ摩耗状態の測定(イメージ)

 住友ゴムの社内でも実験や技術を担当する社員から、タイヤの中の動きを波形で表すことができるようになるため、「開発に活用することができる」という声が挙がっているという。

 将来的には、現在展開しているTPMSによる空気圧管理サービスに接続することを想定している。今後は実用化に向けた開発を推進し、耐久性や転がり抵抗、操縦安定性といったタイヤの機能を損なわずに使用できる装置の実現を目指していく。

 量産化や実用化に向けた課題には、環境温度への対応、長期間の使用、高速領域での走行などに対する耐久性や製造プロセスの設計などが挙げられる。

 なお、同社ではタイヤの空気圧や温度、摩耗を検知できるシステムとしてタイヤの回転により発生する車輪速信号を利用した「SENSING CORE」(センシングコア)も展開している。同技術はセンサーが不要な点が大きな特徴やメリットになっている。ただ、ユーザーによっては偏摩耗の情報が欲しいケース、車輪速信号の取得が難しいケースもあるので、そういったユーザーに対して、発電デバイスを活用したシステムは有効なサービスになり得る。

 センシングコアと並行して提供していくことで、様々な顧客需要に合わせたサービスの選択肢を用意することができるようになる。

 杉本課長は「関西大学とともに “関西”で作り上げて実用化していくことが目標であり使命でもある」と意欲を示す。タイヤのセンシング技術や管理ソリューションサービスは発展の最中にあり、これから広まっていくことが想定される。多種多様なユーザーがサービスを享受できる環境構築は、誰もが安全に移動できるモビリティ社会の実現の一端を担っていくだろう。


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