社会・顧客価値を生み出し続ける――ブリヂストン 草野亜希夫 常務役員 製品開発管掌

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カテゴリー: 事業戦略, 特集

 ブリヂストンは、タイヤの環境性能・運動性能を両立して電気自動車(EV)の航続距離延伸に寄与するENLITEN(エンライトン)技術などを活用し、安全性やコスト効率、生産性、環境性といった社会価値・顧客価値の継続的な創出を目指す。さらに今後は、バリューチェーン全体のシンプル化や商品の差別化も実現するBCMA(ブリヂストン・コモナリティ・モジュラリティ・アーキテクチャ)など、革新的な技術の開発にも挑戦していく考えだ。草野亜希夫常務役員に展望を聞いた。

 ――タイヤを取り巻く市場動向や、タイヤに求められている要素は。

 「EV化をはじめとするCASEの動きもあるように、モビリティは大きく進化しています。それに加え、気候変動や自然の生物多様性、SDGs(持続可能な開発目標)に関係する環境対策も要求されていて、ウェットと転がり抵抗のレギュレーションなどもある。タイヤに求められる性能はどんどん高くなっています。

草野亜希夫 常務役員 製品開発管掌
草野亜希夫 常務役員 製品開発管掌

 カーメーカーの方向性は地域などによって微妙に異なりますが、全体的に言えることはEV化が進んでいることです。したがって、タイヤにはEVに対応した性能が望まれていることは明らかでしょう。ただ、それだけでもない。我々がどのように車作りに貢献できるのか、各カーメーカーと議論しながらタイヤを開発しています。

 EV化に関しては、タイヤに対し、転がり抵抗を低減する、静粛性を高めるといった要望は当然あります。電費の改善は、車のスペースユーティリティ向上やコスト削減などにも貢献でき、価値あるものです。ただこの先、電池のコストが低下するなど変化もあるかもしれません。そうなれば、また新たな価値を創出していくことが考えられます。

 エンドユーザーに対しては、当社は安心・安全を絶対基盤として様々な商品をラインアップしています。例えばREGNO(レグノ)は静粛性や操縦安定性がとても好評ですし、POTENZA(ポテンザ)はグリップが良く、サーキット走行でも満足していただいています。基盤の安心・安全のもと、お客様それぞれにあった性能円を実現した商品を準備し、良い反応をいただいていると思っています」

 ――現在、課題となっていることは。
 
 「求められる性能が高くなってくると、開発に必要なリソースが大きくなっていきます。その一方で、バリューチェーン全体の生産性や効率は上げていかなければなりません。これらのバランスをとることが我々の大きな課題だと思っていて、BCMA(ブリヂストン・コモナリティ・モジュラリティ・アーキテクチャ)といった技術で対応していく考えです。

 単にコモナリティ(共有)というと開発を簡素化していると思われるかもしれませんが、決してそうではありません。BCMAでは、タイヤのカーカスやベルトの機能を突き詰め、高いレベルの技術を導入することで汎用性を持たせます。そして、カーカスとベルトを異なる商品間で共有し、トレッド部分で性能をチューニングしていきます。技術的な難易度は非常に高いのですが、開発の効率化、変革を実現するため、取り組みを進めています。

 タイヤにとって一番重要であり、基盤だと思っているのは“薄く、軽く、円(まる)く”です。このことはカーカスやベルトでもしっかり追求していきます。BCMAは2024年から26年の中期事業計画で本格的に実行するため、現在は準備段階です。乗用車用、トラック・バス用タイヤでほぼ100%BCMAの展開を予定する30年に向けて、技術開発を加速していきます。

 BCMAは開発の効率化につながりますが、スペックがシンプルになるので、例えば生産工程もシンプルにできる。エンジニアリングチームだけでなく、工場も含めバリューチェーン全体で様々な価値を創出する技術です。

 工場に関しては、グリーン&スマート工場という構想もあります。スマートとしては、工程の中にある無駄やロスを減らしていく、また、センシングやAI(人工知能)の技術を活用して最適なプロセスで生産し、タイヤ品質の更なる向上を目指します。グリーンについては、CO2排出量やエネルギー使用量の削減といったことを推進していきます」

 ――技術開発のテーマ、コミットメントは。
 
 「社会価値と顧客価値は継続的に創出していきます。そのために開発している技術の一つがENLITEN(エンライトン)です。タイヤの“薄く、軽く、円く”を進化させた上で、“断トツ技術”のエンライトンによって例えば優れた転がり抵抗を実現し、EVであれば電費やスペースユーティリティ向上といった価値を提供していきます。

 加えて、環境にも取り組んでいきます。今まではなかなか価値になっていなかったサステナビリティに関する活動と、ビジネスモデルを連動させる“サステナビリティビジネスモデル”の確立を目指します。

 サステナビリティビジネスモデルにおいて、“創って売る”という工程では、再生資源や再生可能資源をどれだけ使っていくか、もしくは、できるだけ材料を使わないといったことに取り組んでいます。さらに“使う”では、トラック・バス用タイヤであればリトレッドを、“戻す”に関しては、タイヤをカーボンブラックやオイルといった原材料に戻す技術開発などを実行し、価値を創出していきます。

 我々はタイヤのリーディングカンパニーとして、社会の変化に応えられる技術を開発しつつ、環境にもきちんと取り組んでいきます」
 
 ――ブリヂストン独自のタイヤ開発技術は。
 
 「“ゴムを極める”“接地を極める”“モノづくりを極める”という部分に我々のコアコンピタンス(強み)があると思っています。

 例えば“ゴムを極める”ではスタッドレスの『BLIZZAK(ブリザック)VRX3』が良い例です。当社にしかない発泡ゴムの技術を進化させ、吸水力向上を実現しました。

 また『VRX3』は、経年によるゴムの硬化を抑制することに成功しています。何をしたのかというと、ゴムの柔らかさを維持する新素材を分子レベルで開発し、ゴムに配合したのです。こうした技術はF1参戦時の技術開発を応用しており、おそらく当社にしか行えません。

 新素材を使ったタイヤの性能は、モノづくりの技術があるから安定させることができる。“ゴムを極める”や“モノづくりを極める”という強みがあるから、我々は価値あるタイヤを製造できるのです。

 “接地を極める”でいえば、『VRX3』は接地の可視化によって除水の技術を向上させています。大径で幅が狭いことが特徴のologic(オロジック)技術を搭載したタイヤにも、この強みを活用しています。一例ですが、同じく幅が狭いテンパータイヤは操縦性が高くはありませんよね。そこで、大径化や狭幅化によって燃費向上に貢献するオロジック技術を新車装着用など通常のタイヤに適用するために、ULTIMAT EYE(アルティメット・アイ)を使って接地面で起きていることを解析し、その成果をパターンや形状の設計に落とし込んだのです」

 「3つのコアコンピタンスの強化にも取り組んでいます。

 アルティメット・アイでいえば、今まで見えなかったものも見えるように――例えば以前より高速で走らせても接地圧を計測できるようにする。また、対応できる荷重の範囲を広げたり、より細かく見えるようにしたりもしています。

 センサーなどの装置を使ってリアルの世界における計測技術を向上させつつ、我々が今取り組もうとしているのは、シミュレーションを進化させ、最終的にデジタルツインを構築することです。ただ、タイヤの使用条件は一定ではないですし、ゴムの硬さも使用するスピードや温度によって変わります。これらを再現するのは非常に難しいのですが、リアルだけでなくデジタルもあわせて“接地を極める”のが我々の目標です。

 デジタルツインがあれば、開発中にタイヤの製作量を削減でき、効率化につなげられます。また、実車を使わなくても評価できるようになるなど製品開発の仕方が大きく変わる、そういう世界がくるだろうと思っています。

草野亜希夫 常務役員 製品開発管掌
草野亜希夫 常務役員 製品開発管掌

 “ゴムを極める”の進化の一つはダブルネットワークゴムです。タイヤ原材料の天然ゴムは合成ゴムより強度に優れているのですが、ダブルネットワークゴムはその天然ゴム以上の強さを持ちます。

 今見えてきたのは、ダブルネットワークゴムが耐カット性に非常に優れているということです。そこで、このゴムが一番価値を生み出せるORタイヤに実装することを計画しています。

 “モノづくりを極める”については、各工程の困りごとをなくしていく進化を継続しつつ、グリーン&スマート化やBCMAを進めていきます」
 
 「我々は“ゴムを見る、解く、操る”と言っているのですが、ナノレベルまでゴムを見る技術を持つことで今まで分からなかった問題を解く、最後に操る、つまり配合設計をする。このようなステップが我々の技術開発の土台となっています。

 この“見る、解く、操る”のレベルを高めることが、今年本格稼働したイノベーション拠点『Bridgestone Innovation Park』(ブリヂストン・イノベーション・パーク)の一つの目的です。実験室などもかなり充実していて、技術開発を強化できると期待しています。

 また今後、サステナビリティに向けた取り組みを進めていくと、材料のサプライヤーやパートナーが変わっていくことも考えられます。『ブリヂストン・イノベーション・パーク』では、新しいパートナーに共感いただき、共議、共研し、価値の共創を進めていく。外部との連携を強化し、イノベーションの加速も目指します」
 
 ――最後に、タイヤ開発の展望を。
 
 「タイヤ1本の接地面積はハガキ1枚分だと言われますが、これが車と路面をつなぐ唯一の接点なのですから、その重要性は変わらないと思っています。当社は“品質へのこだわり”や“お客様の困りごとに寄り添う”といったことをDNAとしており、安心・安全という基盤は絶対に揺るぎません。

 さらにタイヤの“薄く、軽く、円く”を突き詰め、顧客価値、社会価値を提供するタイヤをデザインしていく。例えば優れた転がり抵抗や軽量化だけでなく、運転の楽しさや快適さといった点も追求し、“断トツ商品”を開発していきたいと考えています。

 環境を考慮したサステナブルなタイヤ開発も加速していきます。“ゴムを極める”“接地を極める”“モノづくりを極める”という我々の強みを活かし、ブリヂストンらしいタイヤを作り出していきたいです」


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