プレミアムな物流体制構築へ 日本ミシュランタイヤ、ヤマト運輸と連携

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カテゴリー: 事業戦略, 特集

 日本ミシュランタイヤは、2022年9月にヤマト運輸とリードロジスティクスパートナー契約を締結したと発表した。この取り組みは、日本ミシュランタイヤの国内における円滑・強固な物流体制の再構築に向けたもの。既に一部で運用を開始し、2023年1月から本格始動する。同社は国内のサプライチェーン全体を変革し、物流と在庫を最適化することで、コストを削減しつつ物流品質においても“プレミアム”を目指す。カスタマーサービス本部の則竹康隆執行役員に物流体制の改革を進める背景や今後の展望を聞いた。

 ――これまでの物流体制と課題は。

則竹康隆執行役員
則竹康隆執行役員

 「当社ではこれまで3社の物流会社をパートナーとしており、時期により数は異なりますが、全国約20カ所に倉庫を構えていました。

 今までメインとなっていた運送会社は、20年近く取り引きを行ってきた大事なパートナーです。ただ、当社のニーズやビジネス環境の変化があったことから、この2年ほどお客様からのクレームの件数が横ばい状態になっていました。

 20年前と現在を比べると様々な変化がありましたが、大きな変化としては2つあります。1つ目は当社で取り扱う製品の種類やスペックが増えていることです。ユーザーのニーズに応えるためですが、倉庫での準備やオペレーションが複雑になって対応しきれなくなり、間違った製品を届けてしまうことなどもありました。

 2つ目は、タイヤの製造年週に対するニーズです。全てのお客様ではありませんが、4本のタイヤを購入する際に同じ製造年週で揃えることが求められるようになってきています。

 また、当社グループでは『2050年にすべてを持続可能に』というビジョンを掲げています。それを実現するために、3つのP――『ピープル(人)』『プラネット(地球)』『プロフィット(利益)』があり、これらのベストバランスを取り“三方良し”とすることでビジョン達成を目指すことが我々の指針です。

 特に、『プラネット』に関して要求は年々強くなりつつあります。毎年、CO2排出量の削減が求められる中で、現在のパートナーからは具体的な削減案がありませんでした。今回の入札の際にも改めて確認しましたが、アクションやロードマップが見えなかった。

 このように、物流品質と環境に対する取り組みが課題としてあり、今回のパートナー変更の主な背景となっています。

 あわせて、ミシュランでは18インチ以上の大口径タイヤを主力に、プレミアムでパフォーマンスの高いタイヤを供給することで消費者の満足度向上を図ってきました。それに見合うように、“物流もプレミアムにしていかねばならない”という声が挙がってきています。物流は当社にとっても非常に大事なファンクション(機能)として捉えています」

物流を変えて顧客満足度向上へ

 ――則竹執行役員はアパレル企業、EC関連事業などで物流業務を担当されていましたが、タイヤ業界ならではの特徴は。
 
 「タイヤは商材として、黒い、大きい、重い、ゴムの匂いがあるといった特徴があり、トラックの荷台や倉庫に汚れが付きやすいことから、物流における取り扱いの難易度が高いアイテムだと感じています。

 今回、複数の物流会社に声を掛けた際に、『他の商材と一緒にできない』『タイヤを扱うとその倉庫はタイヤにしか使えない』という意見がありました。こういった点に難しさがありますね。

 アパレルなどは商材が小さく、様々な過程で自動化装置を導入できていました。タイヤの取り扱いも自動化することは可能なのではないかと考えていますが、現在、先行事例を見つけることができていません。そういった中で、ヤマト運輸がパートナーとして業務を受けてくれるというのは、当社として大きなことになると思います」
 
 ――今後期待される効果は。
 
 「今回の物流改革においては、『ピープル』に含まれるお客様の満足度を高めることが最も大きな意義となります。物流品質を高め、商品数の増加のほか、製造年週の指定といった新たなニーズにも応えられる体制を構築し、お客様に満足して頂けるロジスティクスを作りたいと考えています。

 『正しい商品を、正しい状態で、正しい時間にお届けする』ことが物流の基本であり、これを確実に実施していきたい。

 さらに、ヤマト運輸と協業することで、付加価値として、配送時のトレーサビリティも高めていきます。全ての商品ではありませんが、まずは乗用車用や二輪用のタイヤで配送状況が可視化される予定です。

 配送時の追跡による、当社内部の生産性向上も期待しています。これまでは顧客から問い合わせがあった場合、配送パートナーに連絡して確認する必要があり、回答までに時間が掛かってしまうこともありました。一方、これからはウェブサイトを活用することで情報が確認できるようになり、迅速なご案内が可能になります。

 また、今まで地域ごとに異なる3社のパートナーが配送を担当していましたが、今後はヤマト運輸に一本化されます。物流品質のバラつきの解消や、連絡窓口が統一されることによる業務効率化にも期待しています。

 タイヤの製造年週に関しては、今までにない追加のサービスとなります。入荷したタイヤの製造年週を1点ずつ確認し、システム上に登録することで対応していく想定です。

 これに加え、全ての在庫タイヤの製造年週を管理することで、FEFO(使用期限が近い製品から先に出荷)を実現できます。期限の迫ったタイヤの在庫を減らし、期限切れによる処分の極小化を図ります。これまでもタイヤを廃棄処分することはありましたが、これを可能な限り少なくできる『プラネット』につながる活動と捉えています。

 あわせて、CO2排出量削減を積極的に推し進めたいと考えています。ヤマト運輸と連携し、EV(電気自動車)トラックの導入や、倉庫の統合で在庫の転送を減少するといった取り組みにより、CO2排出量を削減していきます。

 倉庫は約20カ所から5カ所に集約されますが、ヤマト運輸が持つロット納品やルート配送といった法人向けの輸送ネットワーク『ミドルマイルネットワーク』を活用することで、リードタイムを棄損することなく拠点の数を減らすことができると考えています。

 ミシュランでは、全社で2050年までにカーボンニュートラルの達成を目指しています。2030年にはCO2排出量を2018年比で30%削減する目標を掲げており、実現に向けて毎年排出量を減らしていくことが我々の約束です」

 ――ヤマト運輸を選んだ決め手は。 

ヤマト運輸の倉庫の様子
ヤマト運輸の倉庫の様子

 「当社が大事にしている3つのPに対して、最もバランスが取れたご提案をして頂いたのがヤマト運輸でした。

 入札は20社ほどで、現行のパートナーも含めプレゼンテーションを行って頂き選定しました。CO2排出量の削減、サービスレベルと物流品質の向上に対する確固たるアクションが明示されていたことが要因になっています。

 ヤマト運輸では、既にラストマイルデリバリーへのEVトラックの導入を開始しており、充電にもソーラーパネルを活用するといった取り組みを実施しています。この点が他の物流会社との大きな違いでした」

ヤマト運輸とともに改善の一歩を

 ――タイヤ業界でも注目が集まるRFIDの活用や導入に向けた動きは。
 
 「現在、工場でタイヤにRFIDを内蔵するプロジェクトは、フランス本社やアジアリージョンのヘッドクオーターであるタイを中心に進められています。どちらかと言えば、BtoCよりBtoBのタイヤで先行して搭載が進行している状況です。

 日本では、今後RFIDの内蔵率が高まってきてから対応を始める予定です。将来的に100%近くまで普及する目途が見えてきた段階で倉庫や配送で活用していきたいです。

 ヤマト運輸は既に他社とRFIDを活用した倉庫オペレーションの効率化を実施した経験があり、そういった知見も活かしつつ導入していければと考えています。

 BtoBに関しては、おそらく数年のうちに内蔵率が100%に届くのではないでしょうか。乗用車用や二輪車用に浸透するのはその後になりそうです。

 RFIDタグがタイヤに内蔵されていれば、製造年週をはじめとした情報をスキャンするだけで確認し、システムに連携することも可能です。スタッフが目視で行っていた作業をデジタル化できるため、棚卸作業の効率化にも寄与すると考えています」

 ――数年後の国内物流はどのような姿になっていると考えていますか。
 
 「まず、物流の2024年問題が目前に迫っています。配送ドライバーの残業時間に制限が掛かり、8時間以内で働くことになります。そうなると、例えば、東京から4時間移動し、4時間で帰ってくるといったスケジュールになったり、8時間では収まらず1泊する必要があったりするケースも出てくるはずです。

 当然、ドライバー不足の解消に向けて自動化や無人トラックへの移行が進むと思います。10年後はオートメーションなどが日本でも導入されているのではないでしょうか」
 
 ――今後の展望を。
 
 「今回のヤマト運輸との取り組みは最初の一歩でしかなく、お互いに利益をもたらす関係を築き上げながら、社内のオペレーション改善も進めていきます。

 環境面では、EVトラックの導入や在庫転送の削減以外にも、さらに何かできることが無いか引き続き模索していきます。環境にも良い影響を与えられる体制を構築していきたいです。

 ヤマト運輸と協力し、物流においてもプレミアムを目指していきます。その上で、お客様のニーズや困りごとを吸い上げて、丁寧にお応えしていくような物流サービスを構築していきたいと思います」


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