住友ゴム工業 “天然ゴム調達を持続可能に”

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カテゴリー: 事業戦略, 特集

 世界的なモビリティ需要の増加が見込まれる中、天然ゴムの需要も今後さらに高まっていくと考えられている。天然ゴムの生産地では、森林破壊や人権侵害といった問題の発生を抑制するため、サプライチェーン全体で改善に向けた様々な取り組みが実施されてきた。住友ゴムでは、多くの天然ゴムを消費するタイヤメーカーとして調達時のトレーサビリティや透明性の向上に取り組んでいる。SUMITOMO RUBBER SINGAPORE(スミトモ・ラバー・シンガポール)の山﨑隆一郎マネージングディレクターと宮地大樹品質プロジェクトマネージャーに取り組みの意義や展望を聞いた。

「透明性・追跡性向上へ」

 ――天然ゴムの調達でトレーサビリティや透明性の向上に取り組む意義は。

山﨑氏(右)と宮地氏(左)
山﨑氏(右)と宮地氏(左)

 山﨑「タイヤの主原料は天然ゴムです。世界の天然ゴム消費量の約70%がタイヤ生産に使用されています。今後、世界では人口増加やモビリティ産業の発展によるタイヤ需要拡大が予想されます。天然ゴムの消費量も年々増加しつつあり、生産地域で環境問題や人権問題などが生じてしまう懸念があります。

 天然ゴムを多く消費するタイヤメーカーは、天然ゴムのバリューチェーン全体が持続可能な産業となるような調達や消費をする必要があります。こういった背景から、住友ゴムグループは2018年に『持続可能な天然ゴム方針』を策定しました。2021年8月には、サステナビリティ長期方針『はずむ未来チャレンジ2050』を発表し、あわせて『持続可能な天然ゴム方針』を一部改訂しています。

 この改訂では、天然ゴム生産地域における環境問題、労働問題、人権問題への取り組みを進めるため、GPSNR(持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム)のポリシーフレームワークの内容を反映しました。住友ゴムは、この方針に沿い、様々なステークホルダーと連携した取り組みを積極的に推進し、天然ゴムの持続可能な社会の実現を目指しています」

 ――現在の天然ゴム調達が抱える課題は。

 山﨑「主な課題のうち1つは“トレーサビリティの確保”です。天然ゴムのサプライチェーンの上流工程は、小規模農家、プランテーション、ディーラーといった複数のステークホルダーで構成されており、複雑な構造を形成しています。そのため、加工工場から、原材料となるラテックスを酸で固めた『カップランプ』の原産地までの流通経路を明らかにすることが難しく、大きな課題となっています。

STEC農家支援①
STEC農家支援①

 2つ目の課題は、“小規模農家の支援”です。世界で消費される天然ゴムのうち約85%は小規模農家で生産されています。サプライチェーンの最上流工程に位置する小規模農家は全世界合計で約600万戸あり、経済的貧困や人権侵害の発生リスクにさらされています。

 様々なステークホルダーが参画するGPSNRなどを通じ協議や議論をして、どのように解決していくかといった仕組み作りを進めています」

 宮地「具体的には、児童労働や賃金の問題があります。働いているが、賃金が相応な対価として支払われないというケースが発生する可能性があります。

 農家側に法的な効力がある契約が無く、適正賃金が払われず安い賃金で長時間労働させられてしまうこともありえます。結果的に人権侵害に近い強制労働が行われる可能性があるのが現状です」

 ――課題の解決に向けた主な取り組みを教えてください。

パイロットプロジェクトキックオフセレモニー
パイロットプロジェクトキックオフセレモニー

 山﨑「住友ゴム工業は、2016年10月にIRSG(国際ゴム研究会)が提唱するSNR―i(天然ゴムを持続可能な資源とするためのイニシアチブ)、2018年9月にはGPSNRに参画しています。これにより、当社グループの事業にとって最重要な資源である天然ゴムを、持続可能な資源にするための各種活動にグループ全体で取り組んできました。

 2022年9月からは、スミトモ・ラバー・シンガポールがインドネシアのジャンビ州で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時中断していた『パイロットプロジェクト』をあらためてキックオフしています。

 この活動では、天然ゴムサプライヤーであるシンガポールのハルシオン・アグリ社と共に天然ゴム農家の現状や原料の流通経路の調査、農業従事者への研修、肥料の無償提供といった支援活動を行っています。

 これらの活動を通じ、小規模農家の“生の声”を聞きながら、天然ゴムの流通経路を把握し、供給リスクに対する評価を通じて、トレーサビリティと透明性向上の取り組みを推進しています。

 さらに、同年11月からシンガポールのアグリデンス・ラバー社が提供する『アグリデンス・ラバー・プラットフォーム』を通じ当社グループで使用する天然ゴムの一部を調達し始めました。

 このシステムは、天然ゴムのサプライチェーンにおけるトレーサビリティと透明性を確保するために設計されたデジタルプラットフォームです。同システムを利用して天然ゴムを調達することで、加工業者の情報だけではなく、原材料のさらなる上流工程に位置する生産地域までの情報追跡を可能にしています。天然ゴムの複雑な流通経路をいかにしてトレースするかという面では、GPSNRの方向性をフォローしつつ、我々としてもそれを可能にするようなテクノロジーの検証や確認を進めています。アグリデンスの導入もその一環です。

STEC農家支援②
STEC農家支援②

 あわせて、小規模農家の支援では、GPSNRがタイで実施する『キャパシティ・ビルディング・プロジェクト』への資金援助を行っています。このプロジェクトは、小規模農家や産業プランテーションの支援活動であり、小農家の所得改善、アグロフォレストリーの推進などが目的です。

 そのほか、2021年1月からサステナビリティに関する基準でサプライヤーを評価する仏エコバディス社を起用し、当社のサプライチェーン上での人権・ガバナンス・環境へのパフォーマンスをモニタリング・評価して調達活動に活用しています。これにより、評価基準が統一され、評価結果や改善提案などが、取引先の効率的なサステナビリティ活動推進に寄与できると期待しています」

 宮地「タイでは、住友ゴムグループ企業の天然ゴム加工所スミラバー・タイ・イースタン・コーポレーション(STEC)を通じて、近隣農家へのトレーニングなどを提供しています。苗木の提供や、肥料のやり方など当社が持つ知識を共有していくというイメージです。『どうしたら収量が多くなるか?』という情報がメインになります。

 天然ゴムの栽培を行う農業従事者の生活水準を上げていくことが最終的なゴールになる――それに向けて様々な取り組みをするという形です」

 ――取り組みの中で難しさを感じる部分は。

 山﨑「社内では、これまでのオペレーションに対して、環境が変わっていく中で、自分たちの仕事の形もそれに適応するために変えていく必要があります。今までやっていた業務の変更に納得感を形成していく苦労は一部あると思います。

 あわせて、タイヤメーカーがトレーサビリティの向上のため、原材料の流通をトレースしたいと言っても、小規模農家にとっては追加の仕事になってしまいます。

 それぞれの個社が別の要求や依頼をすれば上流工程に行けば行くほど負担が大きくなってしまうと理解しています。小規模農家にとって何が本当に必要なのか、何が可能なのかを自社プロジェクトやGPSNRを通じて確認していきたいです」

 宮地「社内で外部のテクノロジーを活用している背景には、天然ゴムを栽培する農家は小規模な農家であることが多いという点があります。

 全てを逐次確認するハードルが高いのが天然ゴムのトレーサビリティ全体を考える際の一番の課題になるのではないでしょうか。

 我々だけではなく、業界全体にとって“どのようにデータを取得するのか”というところが、非常に難しい部分です」

 ――今後の展望を。

 山﨑「サプライヤーやタイヤメーカー、農家など様々なステークホルダーとの協力が無くては、天然ゴムの調達が抱える課題をクリアすることは難しいと感じています。GPSNRでの活動がメインとなりますが、これまで以上にステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを通じて課題に取り組んでいきます」


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