住友ゴム工業 執行役員タイヤ国内リプレイス営業本部長 河瀬二朗氏
“人に寄り添う”ビジネスを展開
――国内リプレイスタイヤ事業について、これまでを振り返って。
新型コロナの感染状況が下火になりつつあることから、経済環境は回復基調にありました。国内経済全般で物価の上昇が見られ、タイヤ業界でも原材料価格や輸送費の高騰などを受け22年に2度、市販用タイヤの値上げを行いました。その影響もあり、22年の前半は特に需要が前倒しで進み、好調な推移をみせました。
しかし後半に入りますと、物価上昇がさらに進み、それが国内の景気に影響を及ぼすようになりました。回復傾向にあった国内経済の足取りは重くなり、タイヤの需要も鈍化しました。また降雪の具合も降雪量は多かったのですが、シーズンということと照らし合わせて考えますと時期的にやや遅かったと言えます。
このようなことから、22年は前半と後半とで市場の環境は違いがありました。ですがタイヤ需要を通年でみますと、販売数量は前年の実績を上回ることができました。当社の国内リプレイスタイヤの事業に関しても、市場の状況を反映し前半は好調に推移しました。後半は降雪の遅れが影響したものの販売数量は前年実績を上回っています。
23年第1四半期を終えましたが、国内リプレイスタイヤの需要は23年年間としては前年実績と同程度に推移するものと予想しています。
今年も4月より夏用タイヤが、7月からは冬用タイヤの値上げが行われます。この第1四半期において値上げ前の駆け込み需要がみられましたが、販売自体は比較的順調に推移しました。これからその反動が多少現れて来るものと想定しておりますが、通年では前年のような需要カーブを描くものと考えます。冬用タイヤについてもこの点は同様に推移するものとみています。
食品をはじめあらゆる物の値段が上がっておりますので、今回のタイヤ価格の改定についてはお客様からご理解を得られているものと考えます。
――近年、消費財でオールシーズンタイヤの分野に力を入れて取り組まれています。収益力向上というテーマのもと、オールシーズンタイヤを含めた、高付加価値商品の販売構成比を高める取り組みが重要となってくると思われます。
オールシーズンタイヤは市場でご好評を得ています。国内リプレイスタイヤ市場で本格的に販売展開を始めて5年目となり、その販売数量は毎年1.5倍程度、順調に伸長しています。
オールシーズンタイヤは使用に適しているエリアと、そうでないエリアがはっきりと分かれています。降雪量が多く、道路が凍結するエリアではスタッドレスタイヤが必要です。一方で、雪が降るのは年にほんの数回というエリアでは四季を通じてご使用いただけるオールシーズンタイヤはとてもご好評をいただいております。
また、市場でオールシーズンタイヤの認知度が徐々に高まってきていることを実感しています。現在、「ALL SEASON MAXX AS1」(オールシーズン マックス エーエスワン)を発売しており、タイヤ販売店店頭をはじめ、Webなどを通じて訴求活動を強めています。その効果もあり、ユーザーの皆様からお問い合わせが増えており、実際にお使いいただいた際の〝声〟も多数お寄せいただけるようになりました。
オールシーズンタイヤにも関わりのあるところですが、クルマの市場セグメントでは現在、SUVが非常に元気です。このSUVに装着されるタイヤはプレミアム領域であり、高インチタイヤと言われる18インチ以上の大口径タイヤとなります。この分野は市場で大きく成長しています。
我々はこの市場の動きにしっかりと対応していきます。商品で言えば、昨年新発売したプレミアムカー向けのグローバルフラッグシップタイヤ「SP SPORT MAXX(スポーツマックス)060+」をはじめ、オンロード向け「GRANDTREK(グラントレック) PT5」や「VEURO(ビューロ) VE304」、それに「ALL SEASON MAXX AS1」などです。SUVに対応する幅広い商品ラインアップを取り揃えており、成長するSUV用タイヤについて販売のバックアップを行っています。
タイヤ販売店の皆様にとっても収益の向上に繋がりますので、このような高付加価値商品の販売展開を強めることで、市場における商品ミックスの改善を進めていきたいと考えます。
物価上昇が続いていることで、社会情勢として価格志向が強まる傾向も見られます。高付加価値商品の販売構成を高めるには、まずは我々が商品の良さ、性能の高さという部分をしっかりとお伝えする必要があります。我々からタイヤ販売店の皆様にご理解いただけるよう、その取り組みを進めて参りたい。
宣伝活動として、従来のテレビコマーシャルからWebへとウェイトを変えつつあります。セグメントやターゲットを絞ることができますので、これらの活動を通じて、タイヤ販売店の皆様の後押しをしていこうと思います。
コロナの感染症分類が移行され、行動制限が緩和されました。店頭で直接お話しさせていただくなど、対面でのビジネスを行う機会が以前のように戻って来ることが期待されます。
また一方で、オンラインには情報をいち早くお届けできるという良さもあります。コロナ禍の間、在庫の確認など、オンラインで行うことができるWebダンロップという仕組みを構築しました。リアルとオンライン、それぞれの良さを活用したハイブリッドスタイルでビジネスを行って参ります。
――生産財についての取り組みは。
生産財はタイヤ単体のビジネスから、作業やメンテナンス、そしてこれからは車両のモニタリングを含め、タイヤとその周辺をパッケージとしてとらえてご提案していくというスタイルへと変化し、市場で浸透していくものと思います。
現時点では実証実験の段階ですが、TPMSを通じタイヤの空気圧と温度を管理するシステムを開発しモニタリングの精度向上を図っています。
タイヤとメンテナンス、それに車両モニタリングなどをパッケージング化することが、お客様の困りごとの解決に繋がっていくものと期待しており、我々が今後、力を入れて取り組まなければならないテーマだと考えます。
また、リトレッドタイヤがSDGsの観点から注目が高く、我々も積極的に取り組んでいます。リトレッドタイヤはタイヤ生産時のCO2を大幅に削減することができることもあり、新品タイヤとリトレッドタイヤを組み合わせたビジネス展開を確立していこうと思います。
我々は兵庫県と北海道の2カ所にリトレッドタイヤ工場を持っていますので、この生産拠点を活用していきます。併せて、現在はトラック・バス用がメインとなっていますが、ライトトラック用タイヤの分野でサイズ拡大や品種の拡大を考えています。輸送シーンにおいてラストワンマイルのクルマに向けたタイヤを視野に入れるなど、リトレッドタイヤの生産を拡充していく方針です。
またこのリトレッドタイヤでは、台となるタイヤの回収も鍵となってきます。収集するスキームの整備が必要となってきますので、改善に向け取り組みを進めていこうと思います。
生産財についてはタイヤの安全整備作業が大変重要です。我々はパートナー店や直営店の皆様に向け、作業スキルの向上を目的とした研修会を全国各地で随時行っております。さらに作業技術に関する認定制度を設けており、作業技術を担保するものとして活用しています。
またトラック・バス用タイヤ作業コンテストを開催しておりますが、実際に作業される皆様にモチベーションアップの材料になっているのではないでしょうか。この新型コロナの期間、感染症対策としてクローズドの状況ながら動画で作業シーンを審査するなど工夫を凝らし行ってきています。行動制限が緩和されたことで、以前のような方法で再開できることを期待しています。安全な整備作業を目指し、スキルアップ向上への取り組みをこれからも続けていく考えです。
――新中期経営計画で、DX経営の取り組み強化が重要テーマの一つとして掲げられています。23年度事業にかける想いを。
DX経営はこの23年から25年度にかけて、基幹システムを刷新し、原料調達という川上から、我々が行うタイヤの販売、アフターサービスという川下に至るまで、複雑化したバリューチェーンをデータに基づいてその基盤を整えようという取り組みです。
仕組みづくりと併せて、DX人材の教育・育成を進め始めました。お客様や市場の変化に素早く、柔軟に対応できる組織づくりを行っていくというのが、その基本的な考え方となります。
23年度の第1四半期を締めた時点で計画よりも上振れしており、上期は順調に進捗していくという手応えを感じています。
これからの下期、スタッドレス商戦を迎えますが、天候に左右されるところもあるので気の抜けない状況にあります。また経済環境もインフレが続いていますので、まだ予断を許すことはできません。
新中期経営計画をスタートしましたが、これは初心に返るものだと考えます。ダンロップはジョン.B.ダンロップ博士が息子のために空気入りタイヤを発明したことからスタートしています。この〝人に寄り添う〟ということが、非常に重要です。
近年、コロナ禍という大きな環境変化を経験し、ビジネス面では苦しい時期もありましたが、販売店の皆様から多大なるご支援、ご協力をいただきました。改めて感謝申し上げます。
当社は新中期経営計画を着実に進めるため、スマートタイヤコンセプトに基づき進化したタイヤを市場に投入し続けていきます。〝人に寄り添う〟、安全なタイヤをご提供することでサステナブルな社会に貢献して参りたい。パートナーの皆様とともに一緒になって、事業活動に取り組んでいきたいと思います。