シンクロウェザーは「コト消費」
――24年上期の振り返りと冬商戦に向けての戦略は。
業界全体を俯瞰すると、23年上期は各社で値上げ前の駆け込み需要があり、24年上期はその反動で前年比89%と苦戦した。このような環境下で当社はSUV用タイヤのGRANDTREK(グラントレック) PT5の販売が好調に推移したことや市場での関心度が高まっているオールシーズンタイヤがけん引役となり、業界水準を上回る業績を残した。
冬商戦は需要の前倒しがあった前年を超えることは確実視しているが、例年以上に伸びるかは天候次第だ。当社としてはスタッドレス、オールシーズンの二本柱でしっかりと取り組んでいく。
――10月1日からSYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)を新発売した。手ごたえはどうか。
残念ながら、タイヤという商品は「新商品」ということだけでは世間の注目を集めることがむずかしい。SYNCHRO WEATHERの高い技術や革新性をお伝えするためにも、まずは高いインパクトを打ち出すことが重要だと考えた。そこでMLBの大谷翔平選手を起用した。多くの注目を集めて、関心を持ったお客様が商品をより詳しく知っていただけるようウェブサイトや動画に誘導している。今後も認知度のさらなる拡大に向けて宣伝活動を展開していく。
この商品はこれまでのモノ売りという領域を超えて、「SYNCHRO WEATHERで何を体験していただくか」というコト消費の領域だと考えている。現在の購入層は新商品への関心度が高いイノベーターやアーリーアダプターが中心。より多くの人に購入していただくためには、価格に見合った価値と安全性を提供できているという評価をいただくことが重要だ。次のステップはこのタイヤを購入することで生活がどう豊かになるかをお伝えすることとなる。
そのための施策として、旅行雑誌とのタイアップや商業施設でのポップアップストアを企画している。タイヤを実際に見てもらうだけでなく、キャンプグッズや旅行雑誌なども置いてSYNCHRO WEATHERのある生活をイメージできるような内容にしていく。
タイヤの価値と特徴を伝えるために
――希望小売価格の設定、さらには認定店制度という新しい取り組みにも挑戦している。
商品の価値を理解していただくために、希望小売価格を提示するのがベストだと考えた。タイヤはオープンプライスが主流で、同じ商品でも店舗ごとで価格設定が異なる。ものさしが無い一般のかたから見ると、タイヤの価値がどのように価格に織り込まれているのかがわかりにくい。SYNCHRO WEATHERでは、価値と特徴をしっかりとお伝えしたうえで価格を打ち出した。
認定店制度を設けたのは、お客様の多様なニーズに応えていきたいという思いからだ。SYNCHRO WEATHERはオールマイティな商品だが、夏冬の多様なニーズをすべて満たすのはむずかしいかもしれない。だからこそ、店舗ではお客様のニーズを聞きとる必要がある。商品を理解したうえで、それぞれのお客様のニーズも把握し、そのうえでマッチしていれば勧めていただきたい。
すでに認定店となっている店舗では複数の社員のかたが勉強会に出席されるケースが多数だ。経営者の指示で社員全員が勉強会に出席した店舗もある。これらの認定店は、当社のHPで確認することができる。
データの蓄積で新しい価値を提供
――生産財の取り組みは。
運送会社からは、コスト削減や24年問題にかかわる労働生産性の向上、安全運行の担保や環境対応が経営課題としてあがる。これをサポートしていくために、柱に据えるのが商品・メンテナンスをパッケージングしたESP(エコスマートプラン)だ。タイヤ販売や単体のメンテナンスサービスから、車両ごとに複数年でフルメンテナンスの契約に切り替えるよう働きかけていく。
生産財で重要なのは、いかにデータを蓄積してビジネスを創出し運送会社などにサービスを通じて新しい価値を提供できるかということだ。
たとえば7月から本格展開したTPMSはタイヤの点検を目視などのアナログからデジタルに置き換えることができる。蓄積したデータから空気圧や温度変化などを分析することで、摩耗を減らすための運転方法や積み荷のしかたなど、最適な乗りかたの提案にもつなげられる。当社の業務効率化の観点からいえば、省人化にもつながる。
さらにセンシングコアが既存車にも導入されるようになれば、より多くのデータが蓄積されることで、精度の高い提案ができるようになる。
人を育成し作業品質の向上を図ることも重要課題のひとつだ。TBコンテストはことしで14回目となった。当社独自のテクニカルの認定制度の認定者「T3」は現在約500名以上いる。世代交代もあるので、後進を育成していかなければならない。デジタルを介したサービスのベースとなるのは、高い作業品質だ。引き続き、コンテストなどを通じて、レベルの向上を図っていく。
販社統合で業務効率化とリソース再分配を
――これまでの地域販社11社を統合し、株式会社ダンロップタイヤが誕生した。
統合の目的は二つある。一つは業務効率化だ。人手不足が深刻化するなかで、ひとり一人の生産性向上は当社にとっても急務の課題だ。11社それぞれのオフィス機能を本社に集約することでこの効果を出していきたい。
もう一つはリソースを成長分野に再配分していくためだ。フリートマネジメントなどのようなメンテナンス業務をアウトソーシングする需要が高まっている。こういった成長を見込める事業に人材をあてていく。
統合の効果も感じている。たとえば本社が広域化する顧客企業のニーズに応え、拠点では地域のお客様のニーズに応えるといった棲み分けができるようになった。メーカーと販社の距離がより近づいて、連携を取りやすくなったこともメリットだ。
――中長期の成長戦略は。
中長期的な成長戦略としては三つある。一つは商品力を向上させ、新しい価値を提供できる商品をそろえていくことだ。そのためにも、マーケティングには注力したい。SYNCHRO WEATHERは伸びしろの大きいオールシーズン市場で需要を開拓できる商品だ。今後もさまざまなニーズを吸い上げて、競合相手の少ない市場にも商品を投入していきたい。
もう一つは、ソリューションビジネスの確立も行っていく。TPMSや将来的にはセンシングコアも含めてフリートマネジメントの需要に応える。
最後に、ダイバーシティ経営の確立が重要だと考えている。女性やシニアなど多様な人たちが活躍できるよう、さらなるルールづくりや使いやすい制度に向けての見直し、働きやすい環境の構築などを推進する必要がある。各カンパニーの代表者と意見交換しながら、整備に取り組んでいきたい。