装着車への適切な対応を啓発
車両総重量がおおよそ12トン以上の大型車のホイール規格が、日本特有の「JIS方式」から国際規格である「新・ISO方式」に切り替わった。大型車メーカーが昨年7月に合意し、今年春以降に発売された対象車両のすべてが、この新・ISO方式ホイールを装着している。貨物用普通車の平均車齢からみて、少なくとも今後10年以上はJIS方式とISO方式、新・ISO方式の車両が市場に混在することになる。
12トン以上の大型貨物車保有車両数に占める新・ISO方式ホイール装着車両の比率は、本紙推定では今年年末までに4%程度になるとみられ、まだごく少数に過ぎない。しかし、冬のスタッドレス履き替えシーズンを間近に控えていることもあり、タイヤ・ホイールの点検・整備に一層の注意が必要だろう。
日本自動車タイヤ協会(JATMA)では、既に今年春からポスターやパンフレットを作成して適切な整備作業を啓発しているが、ここへきて新・ISOホイール装着の新しい車両が相次ぎ発売されていることを踏まえ、また冬入り前のスタッドレスタイヤへの履き替え時期が重なることもあり、改めて注意喚起を呼びかけている。
国際スタンダードにミート
大型車ホイール規格のISO化は、昨年7月に大型車メーカー4社がISO方式に切り替えていくことで合意し、それがターニングポイントとなった。具体的には、今年発売の2009年排出ガス規制(ポスト新長期規制)適合車から新・ISO方式ホイールが全面採用されている。
日本自動車販売協会連合会の積載量別登録統計によると、今年1~9月の普通貨物車の登録台数は7万8242台で、このうち積載量9トン以上の車両(車両総重量にして12トン以上と見立てた)は1万9609台で、普通貨物車全体の25%にあたる。また乗合人数30人以上の大型バスは3284台で、全体の登録台数1万745台のうち30.6%を占めている。
積載量9トン以上の普通貨物車の登録台数は、今年年間で約2万5000~2万6000台ほどと予想される。仮に、そのうちの約2万台がポスト新長期規制適合車とすれば、車両総重量12トン以上の保有車両数約54万台のうちの4%弱が新・ISO方式ホイール装着車という計算になる。この比率は今後着実に上昇し、10年以上をかけて100%に近づいていくことになる。
ホイール規格のISO化は、もともと大型車の“安全”に関する取り組みの一環。2003~2004年に大型車の車輪脱落事故が頻発し社会問題となったことは、いまだ記憶に新しい。実は、ホイール規格の変更もそこに端を発している。
国土交通省では車輪脱落事故の問題を受け、2004年年初に「大型車のホイール・ボルト折損による車輪脱落事故に係る調査検討会」を立ち上げ、事故発生の原因究明に努めた。同検討会はその年12月に報告書をとりまとめ、公表。それに基づいた対策を整備事業者、自動車メーカー、運送事業者などに求めると同時に、点検項目の見直しが行われ、点検方法のより具体化が図られたという経緯がある。
国土交通省自動車交通局技術安全部整備課の島雅之課長によると、「大型車の車輪脱落事故の原因というのは、軸とホイールを繋いでいるところが急に外れるというのではなく、何らかの理由により一カ所に亀裂が生じて、その状態で使い続けていると他の部分に波及し、時間の経過あるいは走行の経過とともに破断して脱輪するということが判明した。定期的にきちんとチェックを施していれば、初期の段階で十分防ぐことができるはず」と日常点検の重要性を訴える。
さらに「リコールになった事案もあるが、それは新車の設計・製造という話であり、原因の大勢を占めているのは点検・整備の不十分によるもの」として、車輪脱落事故防止の観点から重要なポイントは、やはり定期的な点検・整備をきちんと行うことに帰結することを強調する。
同検討会の調査・検討の中で、ホイールの取り付け方式についてもテーマにのぼった。このため検討会では、大型車ホイールのJIS方式とISO方式に関するそれぞれの特徴、優位性などを検証するよう、大型車メーカーおよび日本自動車工業会に委託した。そこが、ホイール規格ISO化へのトリガーになったともいえる。
その検証結果は、2006年に日本自動車工業会から報告された。その内容はJIS方式、ISO方式どちらのタイプでも事故は起きており、どちらが事故防止に優位ということはない、というものだった。しかし、ISO方式は取り付け作業性の面で優位であること、またアジアを除く世界のスタンダードとなっていることを考慮し、大型車メーカー4社は自主的にISO規格への切り替えに踏み切ったものである。そのタイミングがポスト新長期規制の適用開始だった。
交通事故統計によると、大型車の車輪脱落事故の件数は2007年42件→2008年39件→2009年13件と年々減少傾向にある。これは「整備事業者や運送事業者などに点検・整備のマインドが根付いていることを反映したもの」として一定の評価を得ている。しかしながら、今後も事故発生状況をウォッチしていく必要があるだろう。
大型車のホイール規格は今後しばらくJIS方式、ISO方式、新・ISO方式の3種類が混在することになる。折しもタイヤ・ホイールの組み替え作業が多くなる冬シーズンを間近に控え、日常の点検・整備を改めて重視する必要がある。昨今では、多様なチャネルで「タイヤ安全啓発」の潮流が高まりつつある。そこに、新たに大型車ホイールの新・ISO方式への対応が求められるようになり、点検・整備の重要性が一層厚みを帯びてきた。