変革するかタイヤの未来 求められる新たな価値

 クルマの電動化が今後急速に進むと見込まれる中、タイヤはどのような形でモビリティへ貢献できるのか――。電気自動車(EV)ならではの構造、あるいは航続距離といった課題に対して、これまで以上に燃費性能に優れ高いライフ性能を実現したタイヤが必要になることは容易に想像できるが、その先に到来する自動運転時代に備え、大手メーカーを中心にセンシング技術やエアレスタイヤなどの開発も加速している。車両の急速な変革に伴い、タイヤメーカーに求められる技術力もさらに一段上のレベルに高められていく。

 英仏に加えて、世界最大の自動車市場である中国も将来的にガソリン車の販売を禁止すると表明し、各国のカーメーカーはEVの開発に向けた取り組みを活発化させている。先日開かれた東京モーターショーでも多くのコンセプトモデルが披露された。EVシフトが進めば、タイヤに求められる性能レベルは従来から変わってくる可能性はあるのだろうか――。

 「EVではタイヤの転がり抵抗を低減することが重要になってくる」と、複数のタイヤメーカーの開発担当者は口を揃える。現状のEVは1回の充電で走行できる距離が課題だが、タイヤの転がり抵抗を低くすれば、同じ電力でもより長く走行できる。また走行音が静かなEVでは、タイヤにも従来以上の静粛性が要求されるようになる。加えて、車両自体が重いことから、「より頑丈なタイヤが求められる」(住友ゴム工業の池田育嗣社長)との意見もある。

コンセプトタイヤ
将来に向けたタイヤ技術の一例。上からブリヂストンの「CAIS」、住友ゴムのエアレスタイヤ「GYROBLADE」、東洋ゴムの「noair」、グッドイヤーの球形コンセプトタイヤ

 各社はこれまでも低燃費とウェット、ノイズ、ライフなど各性能のバランスを最適化するための開発を進めてきた。ただ、極限まで低燃費性能を高めれば、静粛性や乗り心地とのバランスには更に高い技術が必要になる。また、耐久性と軽量化という背反するニーズも両立させなければならい。あらゆる性能を犠牲にせず、タイヤが持つパフォーマンスをいかにして最大限に引き出せるか――各社の技術力が大きく問われることになる。

 EVの先には自動運転の時代も近づきつつある。完全な自動運転を想定すると、人間が操作することを前提としていた従来型のタイヤが必ずしも適応できない可能性も出てくる。万が一の事故を防ぐために安全性の確保が今まで以上に重要視され、タイヤに対しても新たな機能要求が出てくるかもしれない。

 ここ数年、タイヤ業界ではセンサーで路面情報やタイヤの状態を検知する技術開発が加速している。その代表例としてブリヂストンの「カイズ」や伊ピレリの「コネッソ」が挙げられる。また独コンチネンタルは残り溝や温度を測定する技術コンセプトを発表し、新車メーカーへの納入を目指している。自動車の部品で唯一、路面と接しているタイヤから得られるデータは貴重で、活用方法も含めて期待は高い。

 もうひとつ、メンテナンスの観点から考えると、空気が不要となるエアレスタイヤにも一定のニーズが出てくるとの声がある。カーシェアリングが定着すれば、利用者にとっては、“愛車”としての意識は薄れることも考えられる。日常的な点検頻度の低下が懸念されるが、タイヤに何らかのトラブルがあってもある程度継続して走行できるのはメリットだろう。

 一方で、グリップ性能がこれまで以上に重要になるとの考え方もある。例えば、横浜ゴムのエンジニアは「無人運転だからこそ緊急時にブレーキをかけてきちんと止まれることが重要」とその意義を話していた。

 EVや自動運転車が将来的にどこまで市場に浸透するのか不確実な面もあるが、自動車産業が100年に一度と言われる転換点を迎えている中、タイヤにも新しい価値や革新的技術が求められるのは間違いない。

 仏ミシュランのジャンドミニク・スナールCEOが「将来はより高性能なタイヤが要求される。当社はそれを好意的な傾向と受け止めている」と自信を示すように、これまでの実績に裏付けられた高い技術力を持ったメーカーが勝ち残るのか、未来のタイヤに対してどこが答えを導き出すのか、目が離せない状況が続きそうだ。


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