日本ミシュランタイヤが市販用タイヤで販売を拡大しており、特に17インチ以上のゾーンで業界水準を上回る成長を遂げている。好調の背景にはグループ全体で2016年から取り組んできた“顧客ファースト”への意識改革がある。その変化を支えるのは社員自身の成長と、「安定志向の人ばかりになったらこの会社はない」(人事担当の石澤千夏執行役員)という危機感だ。社員の成長からビジネスの発展へといかに繋げていくのか――。
「自分たちの意見を言うだけではなく、最初にこちらの話に耳を傾けてくれるようになってきた」――以前からミシュラン製品を取り扱ってきた、あるタイヤディーラーの社長は最近の印象をこのように話す。従来は「我々の考え方はこうだと伝えるだけという場面もあった」という中、コミュニケーションのあり方が変わりつつある。
ミシュランは国内でも高いブランド力がある反面、競合がひしめく市場で販売量には結びついていない課題があった。こうした状況下、ポール・ペリニオ社長は2016年から全社員に向けて、「ミシュランに足りないものは何か――これまで以上に時間をかけてディーラーから話を聞き、本当のニーズを明確にする」ことを求めた。
その改革を裏から支えた部門の一つが人事だ。石澤執行役員は、「一番大切なのは顧客ファーストの考え方。ミシュラン内部で大きな変革があり、社内が変わっていくことで営業面にも好影響が出てくる」と話す。
その一環として、トップダウンではなくチームで判断し、求められているものをスピーディに顧客へ提供できるような仕組みへと体制の転換も進めてきた。
2016年は試行錯誤もあったが、取り組みの成果が表れてきたのが2017年。従来から販売サイドにとって不満だったものの一つにサイズラインアップの少なさがあった。これまでミシュラン側から「この車両ならこのタイヤが最適だ」と、1~2種類しか揃えていなかったケースも少なくなかったが、タイヤを選ぶのはユーザーであり、そのサポートをするのが販売店のはず。自社の理論で選択肢を狭めていてはビジネスの拡大に繋がらないのは当然ともいえるかもしれない。
こうした声に対して昨年は一気にサイズ拡大を図り、特に成長が期待できる17インチ以上の夏用タイヤに関しては、1年前と比べて1.4倍の402までラインアップを拡充。その結果、18インチは1割弱のプラス、19インチ以上のゾーンでは1.5倍程度まで販売量を増やした。標準装着サイズの大径化なども追い風となり、いずれも市場平均を大幅に上回り、近年では最高の成績を達成した。それ以外にもデリバリーの改善や、初めてミシュランガイドを活用した店頭ツールを展開するなど、現場の意見を吸い上げてきた。
「前例がないため怖さもある」(マーケティング部の成瀬朋伸ブランド戦略マネージャー)が、「顧客のためになるかどうかが戦略の軸となる」ため迷いは少ない。
さらに、こうした取り組みは現場のモチベーション向上にも繋がっている。「販売を伸ばすためにどうしたらいいのか。寄せられる要望の質が上がってきた」という。
この2年間、変革を推進してきたが、その根底には社員の成長が会社の発展に繋がるという期待と、「安定志向の人ばかりになったら、この会社はない」(石澤執行役員)という危機感もあった。
思うように販売が伸ばせない状況を脱した今、いかに成長を持続させていくのか。残る課題への対応も含めて、“顧客第一主義”に向けた動きは今後も加速していきそうだ。