新型コロナウイルスの影響がグローバルに広がる中、タイヤメーカーの事業環境も激変している。各国で個人消費の下振れや完成車メーカーの生産調整の影響などから需要が大きく減少し、現時点では回復時期を見通せない。こうした中、事態が長期化するリスクに対して資金調達を急ぐとともに、コロナ収束後を見据えた中長期的な視点での競争力強化や構造改革に着手する動きも出てきている。
国内タイヤメーカー4社は第1四半期決算に合わせて、新型コロナウイルスの影響や今後の展望を公表した。各社が通期業績予想を「未定」とするなど、需要の先行きは見通せない中で、ブリヂストンは4月にメガバンク3行から合計2000億円の新規借入を実施したことを発表したほか、社債発行枠の拡大やコマーシャルペーパーの発行も決めた。同社では「堅固なキャッシュフローを増強し、新型コロナウイルスの影響が長期化した場合でも十分な流動性を確保する」と説明している。
TOYO TIRE(トーヨータイヤ)は、売上高が「最大で半減した場合も想定」して調達計画を策定、財務の健全性を確保する方針。また、住友ゴム工業は、「キャッシュフローの悪化など様々なケースを想定し、様々な資金調達の手法を準備している」という。横浜ゴムは機動的な資金調達による手元流動性の積み増しを行う。コミットメントライン(融資枠)の設定や海外子会社の借入枠拡大、役員や理事の報酬減なども進める。
一方で、設備投資計画を見直したり抑制したりする動きも目立ってきている。ブリヂストンは、事業へのダメージを最小化するための対策としてキャッシュを重視した経営方針を強化するとともに、投資計画などを見直す方針を明らかにした。同社では「今回の危機は抜本的改革の機会でもある」としており、「今後の回復時期や将来を見据えた競争力や優位性を確立する」と展望を示す。
トーヨータイヤは3月から収益構造改革に着手した。「不急の投資計画の凍結、削減を行う」という方針のもと、「例えばこれまで10かかっていたコストを8で賄えるようにする」(同社)といった改善活動を強化していく。さらに、物流コスト低減のため、資本業務提携した三菱商事の物流子会社との協業も含めて様々な改革に乗り出す。
ただ、同社にとって中期的な成長への柱とも言えるセルビア新工場については工程の調整を行いながら、稼働開始のタイミングは当初の計画通りに進めていく。
横浜ゴムは設備投資の見直しによるキャッシュアウトの削減、国内拠点の最適化を目指した再配置の検討を加速する。
わずかな期間で世界を一変させた新型コロナウイルス。そのインパクトの大きさに霞んでしまうが、自動車産業は「100年に一度の大変革期」の真っただ中にある。CASE、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、デジタル技術を駆使したソリューション――将来への投資を完全に停止してしまえば、収束後の競争で周回遅れとなるリスクもある。コロナ危機への迅速な対応と今後へ向けた投資のバランスをどう整えていくのか、各社の戦略が注目される。