新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための緊急事態宣言が全面的に解除されてから1週間あまり。国内で経済活動が本格的に再開しつつある中、タイヤの生産現場や販売店でも社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保や従業員の体調管理の徹底といった感染対策を取りながら「ニューノーマル(新常態)」への対応が始まっている。
国内の工場は自家用車で通勤する従業員が多く、また工場内の配置も通常時から十分な間隔が取られていることから元々、密閉・密集・密接の「3密状態」になりにくい環境にあるという。それでも今回の感染拡大を受けて各社はマスク着用の義務化や消毒液設置数の拡大、換気の徹底など様々な知恵を出しながら対応を図ってきた。
ブリヂストンは2月下旬に感染拡大へ備えた政府の方針が示された後、国内工場向けのガイドラインを作成。感染リスク低減の一環として、スタッフ会議など業務中の濃厚接触をトレースできる仕組みも整えた。
住友ゴム工業も社内の危機管理本部で全社的な方針を決定。3月上旬から各工場でその方針に準拠した対応を始めた。ロッカーの使用頻度や滞在時間を抑えるために制服通勤を認めたほか、工場の間接部門では在宅勤務を推奨するといった柔軟な対応を図っている。
横浜ゴムは、工場での3密回避を徹底して求めており、制御パネルなど共用部も消毒を行うようにした。さらに「陽性者が職場で倒れた場合を想定して、救急車が到着するまでの間の待機場所を設定する」(同社)という危機対策も進めた。
TOYO TIRE(トーヨータイヤ)の三重県・桑名工場では、従業員用食堂の座席を間引いて配置したり、使用する時間帯を分散したりして接触機会の減少に取り組む。また仕切り板やシールドを設置して飛沫感染にも配慮している。
各社は当面、こうした措置を継続する予定。ブリヂストンは「様々な工夫をしながら働き方改革にもつなげられるように取り組んでいく」としており、トーヨータイヤも「業務効率化による在社時間の最小化も進めたい」と更なる改善への意向を示す。
不特定多数と接触することが少なくない販売店でも取り組みが進む。オートバックスセブンは全店舗で従業員の体調管理を徹底しつつ、店内のBGMのボリュームを絞り、適度な距離を保って接客ができるような工夫も行っている。
ブリヂストンは緊急事態宣言が発令された後に、一部の直営店でドライブスルー方式による無料点検や電話相談をスタートした。住友ゴムは直営店でインターネットによる来店予約を推進し、接触を最小限にするようにした。同社では「アプリを活用したり、ポイントを絞ったヒアリングなど時短接客も積極的に採用している」としており、今後も取り組みを継続するという。
一方で神奈川県にある専業店は、「大手のような対応は中々できないが、整備の作業そのものは密状態にはなりにくい。距離を適切に保った上で、過剰にストレスを感じないようにすることも大事なのでは」と指摘する。
立場や環境によって思いは様々で、どこまで対策を取ることが正解なのかは分からない。手探りでも新しい常態への動きは一歩ずつ進んでいる。