新型コロナウイルスの影響で開催が延期されていたモータースポーツ活動が7月以降、本格的に再開される見通しだ。タイヤメーカー各社はトップカテゴリーからユーザー参加型のレースまで様々な活動を支援する。社会情勢が不安定な時期だからこそ、モータースポーツが持つ魅力を伝え、活性化につながっていくことが期待される。
国内外の様々なレースが延期や中止に追い込まれていた今シーズン、ようやく主要なカテゴリーで再開の見通しが立ってきた。ブリヂストン、ダンロップ、ヨコハマ、ミシュランの各ブランドがしのぎを削り、国内屈指の人気を誇る「SUPER GT」は、当初予定していた4月の開幕から3カ月遅れ、7月18日、19日に富士スピードウェイで無観客での開催が決まった。公式テストは6月27日、28日に行われる。
イレギュラーな形でシリーズが始まるが、現時点でタイヤの開発面への影響は出ていないようだ。日本ミシュランタイヤは「サーキットごとのコンディションに合わせていくという基本的な手法は変わらない。過去に蓄積した様々なデータを組み合わせて対応できる」と自信を示す。ブリヂストンは「テスト走行などの影響が全くないわけではない」としつつも「必要なスペックのタイヤを供給する」と冷静に対応していく。住友ゴム工業も「テストができなかった期間もリモートワークやシミュレーションを活用して準備を進めてきた」と万全を期す構え。
「SUPER GT」などで、レースの日程が例年よりタイトになっている点については、「供給面には問題がない」(ブリヂストン)、「確実にサポートしていくことが我々のチャレンジとなる」(ミシュラン)というスタンスで迎える。
モータースポーツは、各社が最先端の技術を投入し、極限の状態で性能を見極め、知見を得ることが大きな目的の一つだ。住友ゴムはファルケンブランドで独「ニュルブルクリンク24時間レース」に今年も参戦。「ポルシェ911 GT3R」2台体制で総合優勝を目指す。モータースポーツ活動を「重要な先行技術開発の場」と位置付ける横浜ゴムも「SUPER GT」や「ニュル24時間レース」でライバルと競いつつ、「全日本スーパーフォーミュラ選手権」では引き続き単独サプライヤーを務める。
一方、新型コロナウイルスの影響で先が見通しにくい今だからこそ、ファンに夢や希望を与え、クルマの楽しさを伝える役割も一層重要性が増してくる。
ブリヂストンは今シーズンの活動計画を発表する中で、「多くの方々へモータースポーツの楽しさと情熱を伝え、新たな生活への活力と原動力を提供する」と熱意を示している。TOYO TIRE(トーヨータイヤ)は以前より注力してきたドリフト競技「D1グランプリ」で、人気アニメ「エヴァンゲリオン」のレーシングチームにもタイヤを供給して大会を盛り上げていく。
「eモータースポーツ」も活況
新型コロナウイルスの感染が世界的に急拡大したこの数カ月、活況だったのがコンピューターを使い、仮想空間で技量を競い合う「eモータースポーツ」だ。SNSを通じて観戦できる機会も増えてきた。
「世界で最も過酷な自動車レース」と言われる「ル・マン24時間レース」。今年は9月に延期されたが、当初決勝を行う予定だった6月13日、14日に「公式バーチャルレース」が初めて開催された。その模様は世界耐久選手権の公式動画サイトでリアルタイムに配信され、世界中のファンが観戦した。
全ての車両にタイヤを供給した仏ミシュランは、「実際のレースでタイヤが担う役割を十分に再現したシミュレーションソフトの特性があったため積極的に参加した」とコメントし、時間帯や天候など様々なシナリオを想定するという実戦さながらの戦略を支えた。
米グッドイヤーも「世界ツーリングカー・カップ」(WTCR)の「eスポーツチャンピオンシップ」をサポートする。同社では「プログラマーを支援し、タイヤの選択やピットストップの戦略をeスポーツに持ち込む方法を模索したい」と展望を述べている。
こうした取り組みはチームや選手、そしてタイヤメーカーにとって新たな挑戦であると同時に、従来は接点がなかったようなファン層の取り込みにつながっていくことが期待されている。
新型コロナウイルスがもたらした影響は大きく、今後も大勢が集まるイベントの開催は困難な状況が続きそうだ。圧倒的な迫力が感じられるリアルと、ユーザーが気軽に参加できるバーチャル――モータースポーツの世界でもそれぞれの価値を高めていくための変革が加速していくかもしれない。