新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月から5月にかけて全国で緊急事態宣言が発令された。この間、人との接触を8割減らすことが呼び掛けられ、在宅勤務を導入したり、社外との接触を抑えた企業も多い。こうした制約や顧客ニーズの移り変わりもあり、タイヤ卸の現場で変化が起きている――従来の電話やFAXによる発注方法に加え、オンラインで商品を発注するシステムの整備・活用拡大への取り組みや、WEB上での商品説明ツールの拡充が進む。販売店にとっても様々なメリットが期待できそうだ。
住友ゴムが4月に新システム導入
住友ゴム工業は4月28日、「DUNLOP WEB ORDER SYSTEM」(ダンロップ・ウェブ・オーダー・システム=ウェブ・ダンロップ)をリリースした。このシステムは販売店のパソコンやスマートフォン、タブレットからダンロップ及びファルケンタイヤを発注できるもの。営業所を介さずにいつでも在庫検索や発注が可能で、発注履歴なども確認することができる。
同社によると、「国内のB to BにおけるEC(電子商取引)化は年々増加している。タイヤ業界に限らず卸売業のEC化率は他業態に比べて低いものの、販売店からのニーズも多かった」という。これまでファルケンタイヤ向けに運用していたシステムが「販売店から好意的な評価を得ていた」(同社)こともあり、ダンロップタイヤも利用できる「ウェブ・ダンロップ」が導入された。
システムの利用者からは、「営業所に聞かなくても在庫確認や発注ができる」「発注や発送メールが届く」といった点が好評だという。今後もペーパーレス化ツールとなる機能の追加や、取扱商品の拡大などを計画する。
一方、かねてから発注や在庫確認のデジタル化を進めていたのがブリヂストンだ。「WEB発注システム」を導入したのは2009年で、「当社の営業時間外でも利用できるため、販売店は商談のスピードアップができる。当社としては受注業務工数や受注ミスの削減につながっている」という。
直営店に限らず同社の卸販売先で利用できるものの、「全国的にみると活用はまだ限定的」(同社)であることが課題となっている。そのためシステムの活用拡大を目指して販売店への周知活動、CS(顧客満足度)向上に向けたユーザビリティ向上に取り組む方針だ。
また、日本ミシュランタイヤは2010年にインターネットで在庫照会・発注が行える販売店向けのオーダーシステムを本格稼働させた。それ以前はカスタマーサービスセンターで注文を受け付けていたが、システムの導入によって営業時間外でも販売店が商品・サイズの在庫状況を照会し、発注できるようになった。現在は在庫欠品時の入庫予定案内や、効率的な配送の提案といった新たな機能が加わっているという。また、最近では一部の販売店向けに対話アプリ「LINE」(ライン)で在庫状況や価格が瞬時に分かる仕組みを導入した。
もちろん、受発注のデジタル化だけが進展しているわけではない。緊急事態宣言など販売会社からの訪問営業にも自粛が求められた期間、住友ゴムはオンラインで商品クイズや動画を展開し、販売店に対して商品特徴の訴求を図り、顧客から好評だったという。
デジタル化の長所は、販売店がいつでも迅速にビジネスを進められること、販売会社とのやり取りをデータで残せる点などにありそうだ。
一方で神奈川県にある販売店では「オンラインでは価格交渉ができず、セリアル確認などが受けられない」と課題を挙げる。さらに、「急いでタイヤが欲しい場合もあり、また電話でのやり取りは重要なコミュニケーションの機会なので、昔ながらのオーダーは残して欲しい」という意見もある。
様々な業種でビジネスの在り方が変化する中、デジタルツールの活用による利便性や効率性向上と、長年培ってきた信頼関係の上に成り立つ従来型のコミュニケーション――それぞれのメリットが発揮できるよう、より柔軟な対応が試されていきそうだ。