9月に入り北日本からTVCMが始まるなど、本格的な冬タイヤの商戦期を迎えつつある。昨シーズンは値上げ前の仮需や消費増税による需要の変動、記録的な暖冬を受けた販売の伸び悩みがあったことから今年にかける期待は大きい。このような中で、各社は様々な施策で需要喚起に注力する。
昨年は8月に各社の価格改定があり、また10月には消費増税がスタートするなど、例年とは異なる環境下で商戦が進んだ。さらに、全国的な暖冬が続いたことで結果として業界全体で需要は落ち込んだ。JATMA(日本自動車タイヤ協会)によると、2019年の冬タイヤの販売実績は四輪車用で前年比約1割のマイナスとなり、年が明けて以降も停滞は続いた。
こうした中でも各社は主力商品の販売拡大に取り組み、「価格改定前からの仕掛けで、全体的には需要を獲得できた」(ブリヂストン)、「早い時期からの販促ツール展開や早期需要を喚起させるツールを展開し、需要を取りこぼすことなく販売につなげた」(横浜ゴム)などの成果を上げた。
一方で、主に卸販売を手掛ける首都圏のタイヤ販売店が「これだけスタッドレスの動きが悪い年はなかった」と話すように、消費財タイヤを中心に全体的な需要は厳しい状況が続いたようだ。
今シーズンは落ち込んだ需要をどれだけ挽回できるか注目だ。市場の活性化が期待される新商品は、住友ゴム工業とTOYO TIRE(トーヨータイヤ)、日本ミシュランタイヤが乗用車用の基幹商品をモデルチェンジした。
住友ゴムの「WINTER MAXX 03」と、トーヨータイヤの「OBSERVE GIZ2」は、アイス性能を大幅に引き上げたことが特徴となる。両社ともに「2世代分の性能向上」と自信を示しており、住友ゴムの山本悟社長は「特に10~12月の販売には大きな期待をしている」と強調する。日本ミシュランタイヤが投入した「X-ICE SNOW」シリーズは冬の総合性能を重視して開発。得意としている高インチゾーンも多くラインアップした。さらに各社とも近年ユーザーの関心が高まっている新品時の性能持続性にも配慮しており、カタログなどでそのメリットを訴求する。
ブリヂストンは乗用車向けには「BLIZZAK VRX2」、またSUVカテゴリーでは、その技術を応用して開発した「BLIZZAK DM-V3」を提案する。同社では「非降雪エリアであっても朝晩の冷え込みによる路面凍結の恐れが潜んでいるため、万が一に備えるためにも冬場の冬タイヤ装着は必要」とした上で「安全を足元から支える『BLIZZAK』の価値や信頼性の高さを伝えていく」と意気込む。横浜ゴムは、「iceGUARD 6」を柱に据える。2017年の発売以降、これまでの3シーズンで得られたユーザーの評価を活用するほか、暖冬の影響で購入を見送った消費者が多いという想定のもと、「ニーズを取りこぼさないように取り組む」という。
商戦に影響を与えそうなのが新型コロナウイルス。例年は販売店向けに試乗会を開催しているが、ブリヂストンのように「多数のお客様や参加者を集合させた試乗会、勉強会は控える」というケースもある。一方でウェブを積極的に取り入れて理解を深めてもらう活動が始まっている。
横浜ゴムは夏にも動画を用意し、「都合の良い時間に勉強できる」「何度も復習ができる」などと好評を得たことから冬商戦でも活用することを決めた。日本グッドイヤーは商品説明の音声データを配信する取り組みを進める。日本ミシュランタイヤは試乗会が開けなかった場合を想定して、ライブカメラなどを活用して実際の運転をイメージできるような新たな手法を検討していくという。
また、ラインアップが充実してきたオールシーズンタイヤもどこまで伸ばしていけるか注目だ。トーヨータイヤの清水隆史社長は「コロナ禍において交換が必要ない点もあり、拡販していきたい」と期待感を表す。
比較的安定した需要が見込まれる生産財タイヤに対し、気象条件に左右されることが多い消費財の動向には不透明な部分が少なくない。厳しい市場環境の中、いかに消費者を喚起して販売拡大を図っていくか。販売店をはじめ、一体となった活動に期待したい。