日本ミシュランタイヤは生産財タイヤ事業で新たな展開を始める。建設機械用タイヤではカムソブランドの製品をラインアップに加えて、これまでより幅広いユーザーを取り込む。また、トラック・バス用タイヤ向けに展開しているTPMS(タイヤ空気圧監視システム)を活用したデジタルサービスを刷新するほか、海外市場で試行しているデジタルソリューションを国内のニーズに合った形で提供する方針だ。これまでもライバルに先駆けて様々なサービスを創出してきたミシュランが、独自のポジションを強固なものにするべく攻勢を図る。
仏ミシュランは2018年に13億6000万ドル(約1533億円)を投じてカナダの建設・産業機械用タイヤの専業メーカー、カムソ社を買収した。ミシュランが得意としている高性能ラジアルタイヤに、カムソの主力製品、バイアスタイヤが加わることで、OHT(オフ・ハイウェイ・トランスポート)カテゴリーで世界トップクラスのシェアを握った。
買収後、国や地域によって事業展開は様々だったが、日本市場ではこの秋からミシュランとしてカムソブランドのタイヤ供給を始める。当初は小型ローダーやスキッドステア向けのバイアスタイヤ「MICHELIN POWER CL」でサイズを補完する形で投入する。
国内のOHTでは依然としてバイアスのユーザーが少なくない。そのため、ラジアルのメリットが浸透できていなかった面もあったが、ミシュラン、カムソの両ブランドで幅広い提案ができるようになれば、買収のシナジーを着実に発揮できる。今後は使用条件からバイアスの方が適していればカムソを提案するなど、これまで取り込めていなかった層も含めて顧客拡大につなげる。
カムソは農業機械用タイヤなどでも実績があることから、建機以外のカテゴリーでの展開も検討していく。OHTカテゴリーは小径の乗用車用タイヤなどと比較すると強豪が少ない。国内では大幅な販売増は見込まれない反面、コロナ禍でも底堅い需要があるなど、収益性の面からも有利に働きそうだ。
デジタルソリューションの強化も
さらに、トラック・バス用タイヤではデジタル技術を活用したソリューション事業も強化する。各社がタイヤ単体を販売する従来のビジネスからサービスやリトレッドなど総合的に提案するソリューションへの移行を進める中、日本ミシュランタイヤはいち早くクラウドを活用したリトレッドのケーシング管理やタイヤ空気圧情報のデジタル化を推進してきた。
その一例が2018年にタイヤメーカーとして国内で初めて実用化にこぎつけた「TPMSクラウドサービス」だ。早ければ来年にもシステムを刷新するもようで、付加価値を高めつつ、ユーザーがより利用しやすいサービスを目指す。競合他社も同様のシステムを導入してデジタルソリューション分野での競争が始まる中、一歩先に進むことで、顧客のニーズに応えていく。
ミシュラングループとして将来的にはタイヤマネジメントシステムをベースに、あらゆる情報をトラッキングできるようなプラットフォームを構築していく戦略もある。これによって、使用状態はもちろんのこと、生産や在庫の最適化、物流の効率化に加えてタイヤメンテナンスの予測、最終処分の追跡までデジタルで管理することが可能になるという。海外で先行してトライアルが進んでいるが、日本でも様々な取り組みを加速させていく予定で、顧客やタイヤ販売店へのメリットを打ち出していく。
「ユーザーにとっての価値」を最優先にこれまでタイヤ技術で様々な革新を起こしてきたミシュランが、ビジネスモデル全体まで変革させるようなサービスイノベーションを創出する時期は遠くないのかもしれない。