世界的に“脱炭素”を目指す動きが加速している。菅義偉首相は10月末に温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げた。欧州連合(EU)でも2019年に同様の目標を立てており、中国は2060年までにCO2排出量実質ゼロを目指すことを表明。米国も大統領選で勝利を確実にしたバイデン氏がパリ協定への復帰を公約にする。近年のこうした潮流の中、タイヤメーカー各社でも事業活動における柱の一つとして独自に環境目標を定め、課題に取り組んできた。生産工程のCO2排出量の削減やタイヤの低燃費化など、今後も取り組みの持続的な推進が求められる中、国内4社に行ったアンケート調査から見えてきた最新の動向は――。
ブリヂストンは、パリ協定で締結された目標などを踏まえてCO2削減に取り組んでおり、「改めて目標を見直す必要はない」としている。同社は2050年以降を見据えた環境長期目標を掲げており、脱炭素社会に向けたグローバル目標への貢献を引き続き目指す。
一方、住友ゴム工業と横浜ゴムは今回の政府方針の発表を受け、環境目標の見直しを検討している。住友ゴムでは長期目標として「2050年CO2ゼロ」を設定することの検討に着手。現在、同社では2025年に05年比でCO2排出量を20%以上削減することを目指し、タイヤの燃費性能や物流品質の向上に取り組んでいる。あわせて、ライフサイクル全体で環境負荷が少ないタイヤの開発を推進し、温室効果ガスの排出抑制に貢献していく考えだ。
横浜ゴムも生産や流通における省エネ活動や低燃費タイヤの開発・販売を積極化している。同社では、「今後は国内のユーザーからも更なる取り組みの要求が出てくると考えている」と想定した上で「削減目標の見直しは政府の具体的な方針・目標が明らかになった時点で検討する」という。
また、TOYO TIRE(トーヨータイヤ)では、2021年以降に向けた温室効果ガスなどの中長期的な削減目標の立案に向けて協議を進めているさなかだ。現在は省燃費に寄与する素材の開発と商品への採用を行っており、今後も継続していく。
さらに、各社は工場の電源に再生エネルギーを導入していることも特徴だ。ブリヂストンでは2018年にスペインのタイヤ工場とタイヤコード工場、2020年にはハンガリーなどの3工場で使用する電力を全て再生可能エネルギーに切り替えており、今後は欧州以外の地域でも拡充を図っていく。
横浜ゴムも太陽光発電による自家発電の導入を進めており、トーヨータイヤでも各拠点や工場の電源として太陽光発電などの採用を検討する。
住友ゴムでは、関係会社を含む一部の事業所で太陽光発電を取り入れているが、「再生可能エネルギーへの転換はほとんどできていない」ことを課題として挙げ、今後の対応を図る考えだ。
温室効果ガスの排出量が少ないエネルギーへの転換はユーザー側にも求められる。日本政府ではEV(電気自動車)などの税制上での優遇を検討しており、中国や英国もガソリン車からの切り替え推進を表明した。世界的にEVの普及を後押しする潮流があり、国内メーカー各社はモビリティ社会の大きな変化を見据えてEVを含めた自動車メーカーが求める性能や機能を追求することで対応していく考えだ。
地球温暖化という大きな問題に対応するため、国を挙げて取り組む決意を示す「気候非常事態宣言」が採択され、日本も脱炭素社会の実現に向けて動き出す。タイヤメーカーは引き続きCO2の削減、環境の改善に貢献していく。