国内市場で主にトラック・バス用タイヤの管理でIoT(モノのインターネット)やTPMS(タイヤ空気圧監視システム)を組み合わせたデジタルソリューションの展開が活発化している。2018年に日本ミシュランタイヤがタイヤメーカーとして初めて国内に導入した後、昨年は横浜ゴムが「タイヤマネジメントシステム」を刷新。ブリヂストンも海外市場で展開しているデジタルソリューションツール「タイヤマティクス」を国内向けに本格提供を始めた。住友ゴム工業は自動運転車やレンタカー・リースの乗用車を対象に実証実験を進めている。各社が顧客への提案を強めることで、将来的にデジタルを活用した新たなサービスが普及していく可能性がある。
作業の効率化や将来のデータ活用も
デジタルを活用したタイヤ管理システムは、欧州市場では仏ミシュランや独コンチネンタル、ブリヂストンなどが取り組みを強化しているが、国内での導入事例は限られていた。今後、ユーザーや販売店がメリットを感じられるような価値を提供できれば、徐々に市場に浸透していくものと見られている。
各社のシステムで共通しているのは、TPMSによるタイヤの内圧と温度の管理だ。TPMSそのものは以前から使われてきたが、これまではタイヤに何らかの異常があってもアラートが通知されるのは実際に乗車しているドライバーに限られていた。
一方、最新のシステムではクラウドにタイヤ情報を送り、運行管理者やタイヤ販売店などがリアルタイムで情報を共有できる仕組みになっている。トラブルの未然防止を図り、車両の稼働率向上につなげるとともに、タイヤメンテナンス作業の負荷低減、さらにはコスト削減にも貢献できるようになる。
実際に日本ミシュランタイヤの「TPMSクラウドサービス」を利用している運送会社は「予防として有効になる」と評価し、また住友ゴムが九州地区で行っている実証実験では空気圧管理に要する作業時間が8~9割削減できたケースもあった。結果として適切な人員配置やコスト削減が期待できることから、人手不足などの課題を解決する重要なソリューションといえるだろう。
ただ、これらのシステムは全体から見れば一部に過ぎず、各社は先を見据えて進化を加速させていく考えだ。まず、機能追加や精度向上が期待できる技術が摩耗予測だ。
TOYO TIRE(トーヨータイヤ)は2023年にも内圧、温度と合わせて、「トラックやバスでは特にニーズが高い」(守屋学執行役員)という摩耗状態を推定できるソリューションを提供する計画だ。住友ゴムも残り溝をセンシングできるようなサービスを検討している。日本ミシュランタイヤは2018年に実用化したシステムを大幅に刷新し、今年中にリリースする予定。同社の田中禎浩常務執行役員は「付加価値を一層高め、ユーザーが低コストで使用できるようにしたい」と意欲を示す。
得られた情報を開発に活かすケースも増えてきそうだ。横浜ゴムTBR製品企画室の廣川靖夫室長は、「使用条件ごとの温度変化、空気圧の低下具合などの情報は開発に応用できる。空気の漏れの大きさや使用条件が分かれば、ゴムの配合といった仕様変更にフィードバックできる」と話す。
サービスを効率化して最適なメンテナンスが進めば、ダメージの少ないケーシングが増え、国内で現状2~3割で推移するリトレッドビジネスが拡大する余地もある。さらに、燃費や積載量といった運行データと掛け合わせることにより、運転方法の提案といった貢献もできるかもしれない。CASEなど将来のモビリティではデジタルサービスで実績がある異業種からの参入も予測される中、新しいビジネスにつながるような価値を生み出すための競争が始まる。