住友ゴム工業はこのほど、現在の低燃費タイヤより更に燃費性が向上した“夢の低燃費タイヤ”の開発につながるバイオポリマーの合成に成功したと発表した。東北大学の高橋征司准教授、金沢大学の山下哲准教授、埼玉大学の戸澤譲教授らと共同で実施したもの。
研究チームはこれまで独自に開発した改変トマト由来酵素を触媒とすることで、ポリマーを構成するモノマーのうち、列の先頭のモノマーを変更できることを発見している。今回はタイヤの性能向上に有効と見られる先頭モノマーを使用した新たなバイオポリマーを合成した。ポリマーの末端が動くと燃費性能が悪化するため、先頭モノマーを変えることで、シリカやカーボンブラックとの結合を強化できれば、動きを抑制し燃費性能が高まる可能性がある。
住友ゴムでは「原材料と混合して初めて物性を検証できるため、“先頭モノマーとして何が最適か”の解明は今後の研究で取り組んでいく」としている。また、研究を進めることで2040年代を目標に更なる低燃費タイヤを開発し、持続可能な社会の発展に貢献することを目指す。
同社はこれまで、天然ゴムの生合成機構に関する研究を推進しており、今回の発表もこれに含まれる。天然ゴムはパラゴムノキの樹液から生産されるポリマーの一種で、タイヤの主原料の一つとなってきた。
ただ、天然ゴム調達には持続可能性に関する様々な課題が存在する。特にパラゴムノキの生育地域が熱帯地方に限られ、生産の8割が東南アジアに集中しており、自然災害、病害などによる収穫不良が発生するリスクが高まっている。
材料企画部の上坂憲市部長は、「天然ゴムの生合成機構を解明し進展させることで、天然ゴムの収率改善や、タイヤ性能向上に寄与する天然ゴムの生産につなげることを目指している」と研究の背景を説明した。
住友ゴムは2016年に東北大学と共同で、天然ゴムの生合成にゴム合成酵素と2つのタンパク質が重要な役割を示すことを解明している。また、今年3月には、東北大学や金沢大学、理化学研究所と共に天然ゴムを合成する酵素と類似した構造を持つトマト由来の酵素の構造を明らかにし、機能を改変するという成果を挙げた。
さらに6月、東北大学、金沢大学、埼玉大学と共同で、パラゴムノキのゴム合成酵素の一部をトマト由来酵素に置き換え、自然界には存在しない構造のバイオポリマーの合成実験に成功。タイヤ性能に対する効果などは今後検証されていくが、摩耗性能に寄与する可能性があるという。
あわせて、ゴム合成酵素の重要な部分が判明したため、ゴムノキの遺伝子を調べることで、1本あたりの収量が優良な品種を選択し、天然ゴムの収率改善につなげることも想定している。
材料企画部の宮城ゆき乃課長は「同じ酵素でも少しずつ性質が異なる。収量増加や合成ゴムに似たポリマーの合成などに向け、他の酵素も試している」と話している。