ブリヂストンが中期事業計画「24MBP」で掲げた「探索事業〈新たな種まき〉」が着実に実を結んでいる。種のひとつ、空気不要の次世代タイヤ「AirFree(エアフリー)」は既に公道実証実験を行い、実証フェーズの段階だ。「地域社会のモビリティを支える」ミッションに向けた「AirFree」事業のターゲットは「グリーンスローモビリティ」。高齢化・過疎化が進む地域社会の安全な移動の実現をめざすもの。本格的な社会実装を視野に入れ、自治体向けの試乗会が行われた。
グリーンスローモビリティへの取り組み
10月24日、東京都小平市のブリヂストン技術センターで、富山市、東近江市など4自治体が参加する「AirFree」装着車両の試乗会が行われた。
新モビリティビジネス推進部長の太田正樹氏は、「われわれのビジネスモデルに基づくサステナビリティ、その価値を提供できる『AirFree』はまさに地域社会で必要とされるモビリティと親和性が高い」と、グリーンスローモビリティ(以下、グリスロ)への取り組みの背景を語る。
グリスロは「時速20キロ未満で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービス」。東京大学公共政策大学院交通・観光政策研究ユニット特任准教授の三重野真代氏が提唱した。
試乗会に先立ち三重野氏は「移動スタイルは多様化している。高齢者や観光客の地域内短距離移動が増え、少量低速輸送機関など新たなモビリティニーズが増えている。そのなかでグリスロが注目されてきた」と解説。
「地域交通のラストワンマイル」のニーズの高まりに言及し、「狭い道を走ることができ、高齢者も運転しやすい、コミュニケーションツールにもなる」といったメリットや自治体の使用例を紹介した。グリスロは全国で拡大しており、約130自治体で走行実績がある。本格運行は22年度末で38地域にのぼる。
独自技術による空気不要のタイヤ「AirFree」はパンクすることがない。そのため整備されていない道路の多い地方山間部でもパンクのために移動が止められることはない。さらに運転が安全で容易となればドライバー不足の課題解決にもつながる。
技術センターの敷地内で試乗した自治体の参加者は「違和感がなかった」など感想を述べていた。既にグリスロを導入済みの富山市からの参加者は「市民の生活の足、観光の足、として展開している。富山市で社会実装となれば新たなシンボリックなモビリティとして展開できるのではないか」と期待を見せた。
過疎地域から月面へと移動の足元を支える
この日の「AirFree」装着車両試乗会の会場には「AirFree」の第1世代から現在の第3世代までのタイヤと並び、月面探査車用タイヤが展示されていた。最先端技術の「AirFree」を、高齢者など移動弱者の文字通り「足元を支える」グリスロから、宇宙ビジネスへと対象を拡大している。その姿勢はSDGsの目標のひとつ〈誰ひとり取り残さない〉に通じる。
「世界的な大企業がこのような小さなモビリティに注目して開発されていることが非常にありがたい。同時にそれだけ社会の価値観が変わってきていると実感した」と三重野氏はコメントする。グリスロの素材のひとつ一つがサステナブルになることで、車両のサステナビリティ性を一層向上させるという。
サステナビリティを設計の中心とした「AirFree」は今後さらに検証を重ねて提供価値を追求し、2030年には社会課題を解決できる事業への成長をめざす。グリスロの普及とともに「AirFree」の進化に期待がかかる。