ブリヂストンは10月24日、同社技術センターで開かれた「グリーンスローモビリティ実装に向けた自治体向け試乗会」で探索事業「AirFree(エアフリー)」を披露。その説明会で岩淵芳典ソリューション開発第2部長=写真中=がその技術進化を解説した。
そのコンセプトは08年から開発開始
ブリヂストンが26年の社会実装を目指し、ビジネス実証を推進している次世代タイヤ「AirFree」はその名前が表す通り空気の要らないタイヤだ。荷重を側面のスポークで支える。
「AirFree」の提供価値は「パンクしない〈移動を止めない〉+空気充てん不要〈メンテナンス効率化〉+リサイクルやリトレッドに対応〈サーキュラーエコノミーに貢献〉=サステナビリティに対する価値」だ。〈より長く使う〉ことで、同社独自のサステナビリティビジネスモデルに基づく提供価値創出に貢献する。
「AirFree」第1世代の基本的な研究は2008年にスタートした。1人乗りのスローモビリティ向けに開発が始まった。空気が担う荷重を支える機能を硬く強固な素材と構造の組み合わせで代替した。車重は200㎏程度、車速は6㎞、コンセプトは「安心・安全」。
第2世代は13年に開発開始。1人乗りのモビリティ向け。硬く強固な素材を使用し、ひずませない構造、車重は500㎏程度、車速は45㎞、コンセプトは「安心・安全」と「乗り心地向上」。
両世代とも、サステナビリティを中核に同社のコアコンピタンスを生かし、「AirFreeConcept」の名でモビリティの多様化に挑戦してきた。非公道実証試験を経て非公道での安心・安全は担保された。
今回の第3世代は共創をベースにイノベーションを加速。出光興産との共創で実証実験を23年からスタート。2人~4人乗りの超小型EV向け。強くてしなやかな素材・適切にひずむ構造へと進化し、乗り心地を改善した。車重は1トン程度。車速は60㎞程度とし、コンセプトは「人とモノの移動を支え続ける」。
24年4月にはBridgestone Innovation Park周辺~近郊で日本初となる公道実証試験が行われた。26年中の社会実装を目指し、ビジネス実証を推進中だ。
第3世代では、この強くてしなやかな素材の開発により適切な柔軟性を得られるようになった。第1・2世代の「AirFreeConcept」に対し、耐久性や乗り心地が格段に向上した。
安心安全の価値提供へ。目標は10年10万㎞
その素材を生かす構造の設計技術もあわせて重要だ。荷重をかけたとき、突起を乗り越えたときにその入力に対しどのようなところに、どのような力が発生するのか。どこでどれだけひずむのかのシミュレーションを行う。
また、そのモデルを実際に転がしたときにどのような振動が起こるのかもあわせてシミュレーションする。形状のパラメーターと解析の結果をAIに学習させることで、より結果の良い形状パラメーターはどれかをAIに提案させる。それを再度モデル化してシミュレーションを繰り返す。このループを何度も重ねることで最適形状を求めていく。
サステナビリティの具現化はどうか。空気入りタイヤは単なるゴムの塊ではなく、金属や有機繊維を有した複合体だ。安心・安全を担保するためにはメンテナンスが重要。一方で、「AirFree」の基本骨格は路面に接するゴム、車重を支えるスポーク部分の樹脂から成る2ピースのシンプルな構造を採用した。
摩耗したトレッドゴムはリトレッドすることで繰り返し使うことができる。独自開発したスポーク部分の熱可塑性樹脂はリサイクルが可能。使い終わった樹脂は粉砕してから熱で溶かし再利用する。リトレッドとリサイクルを大前提として開発したため、このようなシンプル構造となった。
持続可能なモビリティ社会を実現するうえで最も大切なことは「安心・安全」の価値提供だ。「AirFree」は同社のコーポレートカラーではなく「Empowering Blue(エンパワリング・ブルー)」を採用した。それはなぜか。
統計的に交通事故は薄暮時に最も多く起きている。その薄暮時に視認性を最大化する色が青だからだ。暗い場所では青い色がよく見えるという。ブルーの採用には意味があったのだ。
「使用期間は10年、使用距離は10万kmを目標としている。サステナビリティを堅持しながらモビリティ社会を支えていきたい。今後も公道実証、社会実装を通じ、技術に磨きをかけていく。提供価値に基づくターゲットビジネスモデルを検討し、事業化への探索を深める」と、岩淵氏は「AirFree」のこれからについて思いを語った。