タイヤの空気充てん作業および、車両に取り付けた状態で行う空気補充作業における事故が依然として減っていない。日本自動車タイヤ協会の統計によると、過去10年間で発生した事故件数は合計222件、そのうち死亡事故は11件、作業者が重軽傷を負ったケースは115件に達した。整備作業の中で、事故はなぜ起こってしまうのか、事故を防ぐために何か必要なのか――2007年から2016年までの事例をまとめた。
10年間で発生した事故をタイヤの種類で分類すると、事故件数がもっとも多いのはトラック・バス用タイヤの89件。乗用車用タイヤ54件、小型トラック用タイヤ52件がそれに次ぐ。
2016年には空気充てん作業時の事故が25件あったが、そのうちパンク修理作業に関連する事故が14件。またパンク走行時にともなうタイヤの損傷が16件あり、そのうち引きずり痕の見落としが13件あった。
トラック・バス用と小型トラック用という生産財タイヤで事故件数が多いのは、パンクしたタイヤを修理して使用するという使用特性が事故の遠因として潜在していることが推し量られる。
一方、乗用車用タイヤの場合、新品タイヤの組み替えで事故が起きている。その多くはビードシーティングがうまく行われず、そのまま空気充てんを続けたため高圧となりビードが損傷するというもの。規定内圧の遵守など、適正な作業が改めて求められる。
事故が発生した場所で件数がもっとも多いチャネルはタイヤ専業店。この10年間で108件だった。自家整備が32件、SSが31件と、件数だけを見ると専業店が突出した格好だ。
ただ、これもタイヤの種類や使用特性と深く関わるものと言えそうだ。トラック用の扱い量は全チャネルの中で専業店が圧倒的に多い。パンク修理の要請を数多く受ける専業店は、事故の危険性に常に直面していることを意識すべきだ。
講習会受講をはじめ法令遵守の徹底を
作業に細心の注意を払っているつもりであっても事故は発生する。それを未然に防ぐには適正に作業を行うしかない。事業主は作業者に空気充てん作業の特別教育講習を受講させることが法令で定められているが、事故件数に対し、講習会を受講していなかったケースは3割強を占める。
神奈川県タイヤ商工協同組合が主催する空気充てん作業特別教育講習で講師を務める蒲谷竹美氏(元横浜南労働基準監督署長)は、「安全への知識は人間が持って生まれたものではなく、教えて初めて理解できる。事故がどうやって発生するか、仕組みを理解することが大切」と指摘する。
また「事故が起きた時は現場を見て判断することが重要。現地で現物を直視し、どういう危険があり、どういう対応を取るべきなのか、絶えず対応策を考えてほしい」と話している。
一方、空気充てん中にタイヤが破裂したとしても、被害を水際で食い止めるのが安全囲いだ。だが、それを設置していないケースが事故発生件数の半数以上を占めているのが現実だ。エアコンプレッサーの圧力調整弁を適正に調整すること、飛来防止器具を使用することは、必須であると肝に銘じるべきだ。
タイヤに携わるプロとして確実な作業を徹底することこそが痛ましい事故を防ぐ最善策となる。
【過去10年に発生した事故の中から作業者が死亡または重傷を負った事例をまとめています】
事故の一覧(自動車タイヤ新聞2017年3月29日号より)※PDFファイルで開きます(A3サイズ/約5MB)