国内市販用タイヤのメーカー出荷価格改定の動きが急ピッチで進んでいる。今回の値上げは、天然ゴムや石油化学系原材料が高騰を続けており、生産性の向上やコスト削減など企業努力だけで吸収することが困難なことから決定したもの。
今後の行方を市場関係者はどのように見ているのだろうか。値上げ前の需要の前倒しが気になるところだが、ブリヂストンの清水実専務は、「過去の値上げの時も駆け込み需要はあった。4月から5月にかけての需要増の動きは想定している」と話す。また住友ゴム工業の池田育嗣社長は、「冬用タイヤの値上げを実施する前の8月頃に、業界全体でスタッドレスの駆け込み需要が発生する可能性はある」との見解を示した。住友ゴムの場合は国内工場の生産品種を冬用タイヤにシフトするといった対応を検討する。
今後の焦点は値上げがどこまで浸透するかに移ってくる。国内メーカーの幹部は、「消費財タイヤは市場に浸透していく」と見込む。電気・ガスなどの公共料金をはじめ、家庭用紙製品や輸入小麦といった日用品や生活必需品がこの春から値上げされる。このような状況から一般消費者にとって今回の市販用タイヤ価格の改定は「比較的受け入れられやすいだろう」との見方だ。
また、首都圏の販売店関係者は「通常はボーナス商戦期に行っていたセールを前倒しするなどして顧客へのアプローチを強めたい」と、価格改定が市場の活性化に繋がるのではないかと期待感を示す。
その一方で、問題となるのが生産財だ。運送事業者にとってタイヤはコストであり、いわゆる運行三費の一つ。国内メーカーの首脳は、「人件費が高騰しドライバー不足が顕著。燃料費も上昇傾向にある中、タイヤの価格や整備料金が上がることに抵抗感を示す事業者も当然出るだろう。価格改定の事情をていねいに説明し、理解を得られるよう努めていくしかない」と決意を示す。
トラック・バス用タイヤを多く扱うタイヤディーラーでは、「先行して発表したメーカーでもまだ価格改定は始まっていないが、ブリヂストンと住友ゴムが値上げを実施する6月に向けて価格交渉が本格化するだろう」と見通す。
増大するコストを販売価格に適正に転嫁して、市場は正常な競争と秩序が保たれる。今回の価格改定を市場でいかに浸透させるか――業界の成熟の度合いを測るものさしとなりそうだ。