住友ゴム工業は5月16日、タイヤの回転により発生する車輪速信号を解析することで、「路面の滑りやすさ」やタイヤの「荷重」を検知するタイヤセンシング技術「SENSING CORE」(センシング・コア)を開発したと発表した。既に多くの車両に装着されている同社のタイヤ空気圧低下警報装置「DWS」(Deflation Warning System)を進化させたもので、安全な車社会の実現に貢献する技術として期待がかかる。今後、ブレーキメーカーへの提案を進め、2020年までに新車採用を目指す。
住友ゴム工業は1990年代にタイヤ空気圧低下警報装置「DWS」を実用化した。空気圧の警報装置はタイヤバルブに圧力センサーを内蔵する直接式と、車輪速信号から空気圧の低下を検知する間接式があるが、「DWS」は間接式を採用。ESCなどが使用している車輪速情報から演算を行い、タイヤ外周長の変化から空気圧の減少を検知するもので、同社では「ソフトウェアで検知するため、メンテナンスフリーで低コスト化を図ることができる」と、そのメリットを説明する。
今回、開発した「SENSING CORE」は空気圧に加えて「滑りやすさ」と「荷重」を検知できるようにしたことが特徴だ。
「路面の滑りやすさ」を検知する技術は、高μ(ミュー)路でのタイヤ特性を基準に、車体速度とタイヤの回転速度の差からスリップ率を割り出し、滑りやすさを指標化するもの。タイヤの回転信号には様々なノイズが含まれているが、これをいかに除去するかがポイントで、DWSで培ってきた技術を応用した。
システムで得られた情報をドライバーへの警報として表示するほか、将来的には収集したデータの配信サービスなどを検討している。
同社オートモーティブシステム事業部DWSチームの川崎裕章課長は、「夜間の凍結路面やハイドロプレーニング現象が起こる前に、通常走行している状態でグリップ力の低下を検知してドライバーへ提供したり、車両を制御することが可能となる」と話す。
また「SENSING CORE」では4輪それぞれのタイヤにかかる「荷重」を検知することにより、クルマの挙動を最適化させ、安全性向上に繋げることを目指す。周波数の特性変化を前後左右それぞれのタイヤで相対的に比較して、各輪にどの程度の荷重が配分されているのかを分析する。ここで得られた情報からブレーキの圧力を最適化したり、車両の方向を微調整する技術に役立てていくほか、スタッドレスタイヤや摩耗したタイヤでも情報を検知できることから高い汎用性を持ったシステムとして期待がかかる。
オートモーティブシステム事業部長の吉岡哲彦執行役員は、「自動運転などを見据え、周囲の環境や位置を認識する技術、車両の状態を把握する技術など、センシングは今後欠かすことができない技術の一つになる」と展望を述べた。
同社では今後、タイヤの摩耗や損傷といった状態を検知することも検討している。システムの精度をさらに向上させ、早期の新車採用を目指す。
タイヤから路面やタイヤの状態を検知する技術はタイヤメーカー各社が取り組みを強化している。ブリヂストンは2015年にタイヤ内部に取り付けたセンサーから路面状態を判別する技術を世界で初めて実用化した。すでに北海道の高速道路で凍結防止剤を散布する車両に採用されている。また、米グッドイヤーや独コンチネンタル、伊ピレリなども、空気圧以外にタイヤの残り溝や路面状況を判別する技術開発を進めているほか、東洋ゴム工業は2020年までにセンシング技術の開発に取り組む方針を掲げている。
実車走行試験で精度の高さ証明
住友ゴム工業は16日、茨城県にある日本自動車研究所の城里テストセンターで「SENSING CORE」を搭載した車両のデモ走行を公開した。
テストでは最初にシステムが車両の状態を分析するため、高μ路であるアスファルト路面を走行。これにより車体重量のほか、タイヤ空気圧や各車輪が受けている荷重、路面状態のデータを取得する。計測にかかった時間は約5分。その上で低μ路に進入し、システムが路面状態を検知してアラートを発する様子を見学した。
画面上部の丸は右へ行くほど路面が滑りやすいことを示しており、下部のグラフは加速した時の滑りやすさを示す。グラフが鋭角になるほど、車体は滑りやすい状態にあるという。
続いて片輪のみ低μ路に侵入した状態での走行実験を行った。「SENSING CORE」は左右の滑りやすさの違いを正確に検出し、警告を表示することを確認できた。
オートモーティブシステム事業部DWSチームの川崎裕章課長は、「このシステムはタイヤのわずかなスリップ差を計算して路面の状態を検出しているため、例えば雪道で片側だけが凍結した状態も感知することができる」と話していた。