タイヤ専門店にとって、拠り所となるのがタイヤ整備の技術だ。顧客への最大のアピールポイントであり、他店との差別化を図る手段ともなる。石川県白山市の嘉門タイヤサービスもそう。整備技術の“腕”を店のアイデンティティとし、さらなるスキルアップに取り組んでいる。
嘉門タイヤサービスの所在地は石川県白山市橋爪町337番1。同社の代表を務めるのは橋本健司さん。1993年、自宅を拠点に個人商店としてこの仕事を始めた。「コンプレッサーを積んだ4トンの平ボデー車1台から、運送会社を主なお客様としてタイヤの整備サービスの仕事を始めた」、橋本さんはスタート当初の頃をこのように振り返る。
「クルマ1台で仕事を行っていましたから、お客様からタイヤがパンクしたという電話が重なると、すぐに駆け付けることができません。ご迷惑をかけるわけにはいきませんから、お客様のクルマが稼働する前の晩に、全車両のタイヤを点検するのです。そのときに不具合を見つければその場で修理をしておく。そうすることによって、お客様にとっては不意のタイヤ故障でクルマが動かなくなることは少なくなりますし、結果としてわれわれへの出張要請が重なることも減ってきました」と続ける。
始業前点検と確実なタイヤ整備が顧客の安全運行にどれほど寄与するか、そのことを橋本さんは肌身で知った。それがそのまま嘉門タイヤサービスの原点となっているのだ。
それから2年後の1995年12月1日、有限会社として設立。ここから2kmほど離れた野々市市内に本社を置いた。現在地へは今年4月から移転してきたものだ。
白山市はいわゆる平成の大合併で誕生した新しい町。嘉門タイヤサービスの周辺は居住区域で、古くからの戸建てや農地が多い。金沢と小松を結ぶ金沢バイパスに近く、大型ショッピングモールや市内の工業団地へのアクセスにも便利だ。ここは、ダンロップタイヤ北陸のタイヤランド松任と近く、以前から近い存在でいたダンロップとの連携をより強いものにすべく、この機にダンロップタイヤショップ店に加盟した。
嘉門タイヤサービスは現在、橋本さんを筆頭に6人のスタッフ体制。前述したように、店では生産財タイヤから商売をスタートし、現在は消費財タイヤも取り扱う。売上高における構成比は前者が7割、後者が3割。
消費財タイヤの顧客も、もともとは生産財タイヤからの流れだったそうだ。「運送会社やリース会社などに務めている従業員の皆さんが乗る自家用車、そのタイヤについてご相談に応じていたところから始まった」と、橋本さんは言う。そのユーザーからの紹介で次のユーザーに、またその紹介で次にユーザーにと、“客が客を呼ぶ”という口コミによって顧客層が大きく拡がっていったそうだ。
サービス・営業担当の吉岡祐喜さんは「当店の“ウリ”はやはり技術。お客様の困りごとに素早く、確実に対応しています。他の店ではできなかったが、嘉門タイヤに任せれば大丈夫だ、そう言っていただけるお客様が多いのです。タイヤ整備の技術には自信を持っています」、このように胸を張る。
またリピート来店が多いのも同店の自慢の一つ。吉岡さんによると、ローテーションのタイミングでもないのに、スタッフと会話をしに来店するユーザーも多いのだそうだ。顧客同士の情報交換の場、くつろぎの空間として店を提供することで、それが次のタイヤ販売につながっているようだ。
「近くに大規模な工業団地や鉄工所などがあることから、今後、営業をかけ顧客の増加を図っていきたい」と、橋本さんは話す。現在地へ移転して半年。商圏の特性を分析し、地域の需要にミートしたビジネスを展開していきたいとしている。
同店では、顧客のタイヤを管理するタイヤメンテナンスサービスを行っている。シーズンごとでタイヤのはめ替えがある降雪地では、需要の高いサービスだ。店にとっては顧客のタイヤが今どういう状態なのか、ひと目でわかるため、貴重な情報源にもなる。
冬や春のはめ替えシーズン期間に業務が集中する降雪地。その限られた時期で、いかに素早く効率良く作業をするかが問われる。嘉門タイヤサービスでは、さまざまな角度から工夫を凝らし、顧客のニーズにマッチしたサービスを提供する為に、同じグループである運送部門(株式会社ステージ)との連携で新たな企画も立案、模索している。
加えて、ダンロップが実践している作業を見学し「安全な作業については、更なるレベルアップが必要」と吉岡氏は言う。今後、作業面でもダンロップとのコラボにより新たな嘉門タイヤが見られそうだ。
ところで、同店の名前の由来について訊いたところ、商売を始めるにあたって、「お客様に『喜び』を『加』える『門』出、という意味合い」なのだそうだ。さらに、英語の“COME ON”の意も込めている。顧客本位という同店の姿勢が店名にストレートに反映されていると言える。