どんなに高性能なタイヤを装着していても点検や整備を怠っていてはその商品が持つ本来の価値は発揮できない――。タイヤ管理が適正でなければ、燃費の悪化や偏摩耗に繋がることをどれだけの消費者が正しく理解しているのだろうか。こうした中、国分商会(埼玉県熊谷市)が埼玉県内で展開するタイヤショップ「マーク」では、ユーザーへタイヤのローテーションを提案する活動を積極化している。同社の松本章執行役員(マーク事業部部長兼営業部部長)は、「何のためのローテーションなのか、業界として今一度考えていくことが必要だ。ユーザーにとって常識となるような文化を作っていきたい」とその狙いを話す。
マークがローテーション作業に注力するきっかけは顧客の安全を守ることだけではなく、繁忙期と閑散期の作業量のギャップを埋めるという目的もあった。
以前から同社が取り組んできたのは社員のブランド化。言い換えれば、いかに固定客の心を掴めるかを重視してきた。
熊谷店の場合、従業員6名のうち5名が正社員。「一見さんだけで運営するなら、パートやアルバイトで回したほうが経営効率は良い。だが正社員でやる以上、固定客にどれだけ支持されるかが重要となる」(松本氏)。
だからこそ同店ではローテーション作業に対してきちんと工賃を請求できる体制を確立している。他の販売チャネルでは無料でサービスしているケースも少なからずあるが、「我々はどういう客層を求めて、誰にタイヤを買って頂きたいのか」を徹底的に考え抜いた結果だ。
「閑散期だからといってローテーションを無料で実施することは社員の“安売り”に繋がってしまう。社員が“ブランド”となることが大切なのに、それを安売りしたら値段しか見ないお客様だけになってしまう」
これまでの経験から価格のみを求めるユーザーはタイヤ管理への意識が低い傾向がある。「良いタイヤを買って頂き、タイヤが大事だとご理解して頂ける方に向けて販売していく」――これが目指す姿だ。
その上で松本氏は「販売側の熱意はお客様に必ず伝わる」と力を込める。それを象徴するような出来事もあった。
「あるお客様をお見送りした際、『量販店に変えようと考えているが、どう思う?』と聞かれたことがあった。それに対して『当店はタイヤの専門店として、こだわって仕事をしています』と答えた。『やはり、技術のあるここが良い。ここなら安心できる』と引き続きご利用して頂いている」
同店では通りに面した目立つ場所に、『危ないと言われたそのタイヤ、見させて下さい』と書いたPOPを設置している。他店で「このタイヤは摩耗が進んで交換が必要」と指摘されて来店するケースもある。いわばセカンドオピニオンのようなものだ。
このような来店客に対して、松本氏は「新品を売るのではなく、まずローテーションで対応できないかを確認させる」という。
「スタッフには常々、『新規顧客はいらない』と言っており、当店は固定客だけでいい。その活動を続けていけば評判が広がり、継続してご利用頂けるようになる」
ローテーションに重点を置き成果を挙げてきたマークだが、このような取り組みを広く行き渡らせることが今後の課題となる。松本氏は「タイヤローテーションの重要性、そこから生まれる効果に業界全体が気付いて欲しい」と期待を込める。
その一環として技術の見える化にも着手した。店内の待合スペースでは作業風景を収めた動画を放映している。ユニークなのは何故その作業が必要なのか、解説を加えた内容となっている点だ。「それで業界が良くなるなら」という思いから、同業者にも動画を譲り渡すこともある。
ユーザーのため、そして店舗が生き残るために。地道な取り組みに終わりはない。