荒川区の板野商会 タイヤ業界を変革し、未来へ

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カテゴリー: ディーラー, レポート

 東京都荒川区に本社を構える板野商会。現在は、トラック用タイヤの組み替え作業をはじめ、各種タイヤ・ホイールの販売や買取、輸出入、リサイクルまで幅広く事業を行う。本社のほかには埼玉支店(加須市)や神奈川支店(海老名市)、千葉物流センター(八街市)を有し、従業員数はグループ全体で28名。代表取締役社長を務める板野光博氏は、労働環境に関してタイヤ業界に一石を投じている。

9割が『できない』と言うが、やればできる

 同社の創業は、大正後期に初代が「板野商店」を立ち上げた頃に遡る。もともと産業廃棄物の回収業からスタートし、中古タイヤや台タイヤの輸出を行っていた。

板野商会
板野商会の本社

 転機となったのは2008年頃に始まったリーマン・ショック。それまで順調だった輸出が滞ってしまったため、新品タイヤの輸入を始めることになる。板野社長は「運が良かった」と話すが、試しに始めたインターネットでの販売が成功し、新しい事業部を立ち上げることとなった。

 7~8年前からは店舗で組み替え作業も行うようになり、今年2月26日には神奈川支店もオープン。需要の高い現地で組み替え作業に乗り出すなど、業務を拡大している。

 そうした中でメインの事業となっているのは、運送事業社が保有するトラック用タイヤに向けたサービスだ。

 現在は本社などで組み替え作業を実施するほか、廃タイヤの運搬サービスを北は東北、南は中国地方までの広範囲で展開。トラック対応のタイヤサービスカーも2台所有し、出張サービスにも対応する。

 着実に事業を拡大してきた同社だが、現在も取引先から様々な要望が寄せられており、「お客様に引っ張られてどんどん仕事を伸ばしている」状態だ。

 最近では、「関東エリアから東北、関西エリアまでお客様をサポートできるような店舗網の構築」を目指す。また、レンタカー業者からの依頼で新しい乗用車用サービスカーの導入も検討している。

 こうした事業展開を行えるのは、「各部門、各部署できちんと採算が取れるように事業を立てる」という板野社長の考えがあるからだろう。PDCAのサイクルを回しながら、今後10年以内の上場も目標に掲げている。

 事業の拡大と合わせて板野社長が意識している取り組みは、従業員の労働環境の改善だ。同社では、板野氏が昨年1月に4代目の社長に就任する2~3年前から“働き方改革”に取り組んでいた。

 例えば、就業日は月曜日から金曜日に定め、仮に土日祝日に作業の予定が入った場合は、事前に振替休日を届け出る決まりにした。また作業員の就業時間内には、午前と午後それぞれで10分の休憩、および1時間の昼休みを設けることになっている。

 タイヤ業界では、みなし残業などあいまいな労働環境も多いのが現状。その中でも、板野社長が「きれいな状況でやっていきたい」と語る通り、就業時間前後の早出や残業も1分単位で管理する体制を整える。

本社内にある作業場
本社内にある作業場

 さらに、同社はただ機械的に時間を管理するだけではない。業務管理部が中心となり、部署どうしで残業の有無を共有して、労働時間の改善方法を考える組織的な動きも取り入れた。

 そこには「あくまでも1日の中でやるべきことを時間内に終わらせる。それができた人間の給料が少なくて、残業した場合の給料が多いのはおかしな話」という考えがある。

 また、その先に計画しているのは、タイヤ業界全体が陥っている人材不足への対応だ。

 「人が来ないという環境があるがそこを変えたい。今は、外国人技能実習制度に取り組み始めている。働き手が足りないタイヤ業界に若い人材が海外から入ってくるので、活性化に繋がるのではないか」

 農業や最近では介護業界などが取り入れている技能実習制度では、実習生が現地で日本語の研修を受ける環境が整えられている。板野社長も語学と合わせ、タイヤの取り扱い方などについて学び終えた実習生を迎える仕組みを想定する。

 8月には、同社に最初の実習生が複数名ベトナムからやって来る。まずは、彼らの働き方や働く環境作り、管理方法に加え、制度の利用にかかる費用など様々な情報を収集する予定。そこで得られた材料からマニュアルをまとめ、タイヤ業界全体にフィードバックさせることが目標だ。

 これまでは労働環境の改善や人材確保などに自社内で精力的に取り組んできたが、今後はこの動きを業界全体に波及させることを目指している。

 「東京自動車タイヤ商工協同組合としての活動もしっかりやっていきたい。今は青年部に入っているが、そこから一人ずつ巻き込んでいけたらと思う。良い環境ができて、それが一つの流れになれば必ず人は乗ってくる。その入口を作るのが自分の仕事」

 一方、社内で現在課題となっているのは“知識の共有”だ。日々進化する技術について知っている人もいればそうでない人もおり、現状では、知らなくても聞けば良いという雰囲気があるという。そこで、全員がタイヤについて“知っていること”を目指し、社内では勉強会の場を作り始めている。

 板野社長の取り組みは、もしかしたら誰もが一度は考えたことのある問題かもしれない。ただ、それを実行に移すことこそが難しいのではないか。「9割の方が『できない』と言うが、やればできる」――同社は着実により良い未来へ足を進めている。


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