今年2月にオープンした板野商会神奈川支店(神奈川県海老名市)。本社である板野商会(東京都荒川区)は、各種タイヤ・ホイールの組み替え作業や販売、買取、輸出入まで幅広く事業を展開している。板野光博社長は、「お客様をサポートできる組織を作りたい」という目標を掲げ、現在関東エリアから東北、関西エリアまで視野に入れた店舗網の拡充を進めている最中。今回取材した神奈川支店は、その取り組みの一つだ。
将来は幅広いエリアへ展開も視野に
板野商会神奈川支店が所在する海老名市は、人口約13万人ほどで神奈川県の県央に位置する。同店舗の近隣には、圏央道海老名ICや東名高速道路厚木ICなどがあり、交通利便性や、それに伴う物流量の増加へ期待が高い地域となっている。
具体的に周辺の主要な幹線道路を挙げると、東名高速道路や圏央道のほかに小田原厚木道路がある。さらに、今年1月28日には、新東名高速道路の海老名南JCT~厚木南IC間が開通した。
国内全体を見ると、生産財の需要は横ばい、もしくは微減で推移していくとの見方が少なくない。だが、関東圏や中部地方、さらには関西地方までの交通アクセスに優れるこの地域で、まだまだその心配はないようだ。
そのような地域性に着目し、オープンしたのが神奈川支店。昨年9月から出店場所の検討を始め、今年の2月26日にオープンしたばかりの新拠点となる。
店舗はトラック2~3台が作業できる敷地にある。さらに、消費財から生産財まで幅広く対応できるサービスカーや、卸売で使用する配達カーをそれぞれ1台保有する。
神奈川支店の支店長は中島聖志さん。ゆくゆくは自分で店舗を営むことを目指し、他店でタイヤに関連する作業技術を学んできたという。乗用車用やトラック用だけでなく、特殊な産業車両用まで扱う豊富な知識と高い技能を持つ。
現在、支店では中島支店長と山本雅人課長が働く。まだお店を始めたばかりということもあり、今は2人で、半径10km圏内でトラックや営業車を扱う事業所を訪問しているところだ。
「まずは近場からの勝負。今は種まきをして、そして口コミも利用して、お客様に『あそこはサービスが良いよ』と言われるようになりたい」(中島支店長)
地元に根ざした営業活動に取り組む理由は、開店して日が浅いからだけではない。そこには「商売としてやっていくには、地域社会に貢献することができないと成功は無い」という中島支店長の考えもある。
そこで心がけていることは、「丁寧でありながら、なおかつスピーディーに」を念頭に置いた満足度の高いサービスだ。
例えばタイヤの取り扱いについては、特定のブランドに絞ることなく、ドライバーのニーズに応えて何でも扱う。
さらに、「これからはお客様と会話をしたい」と中島支店長は語る。ユーザーとの直接のやり取りの良さとして、作業を担当する人の顔が分かることや、店舗への入りやすさがあるからだ。ここが量販店でのサービスとは区別された大きなアピールポイントとなる。
これらの取り組みで高い顧客満足度を得て、一度来店したユーザーがリピーターになってくれることが目標だ。
現在の支店では、立地の特性から生産財が事業の中心となっている。だが、将来に向けて中島支店長が理想と考えるのは、生産財と消費財の割合が5対5となること。
今後は、板野商会が行っているインターネットでのタイヤ販売を活用して、購入者の履き替え作業などを積極的に請け負っていく方針を定めている。
また、周辺地域はあまり降雪がなく、乗用車の冬タイヤへの履き替え需要は高いとは言えない。そこで、支店独自でこの地域に合った提案を行い、乗用車のドライバーにも店舗の利用を訴求していく考えだ。
支店としては、将来的に年商2億円まで引き上げることを目指している。だが大事なポイントは、ただ売上の拡大を掲げるのではなく、「従業員一人ひとりの家族の生活を考える」ことだと中島支店長は語る。
そうした思いは、本社で板野社長が中心となり、労働時間の管理といった“働き方改革”に取り組んでいたことに通じるだろう。人材不足といった問題に直面しているタイヤ業界にとって、中島支店長や板野社長の考えは貴重な指針となるのではないか。
地元での営業を大切にしながら、支店で働く2人が目指すのは――。今後の目標として、中島支店長は「ここを拠点に県内で2つ3つ、店舗を増やしていければと考えている。だから、ここで良いスタートを切りたい」と話す。
さらに、サービスカーや配達カーを活用して、「これから隣の静岡県など西の地域までトラックのお客様を広げていく」(山本課長)という展望もある。
「まずはサービスで勝ちたい」――神奈川支店は作業の質を第一に、新たな挑戦を始めていく。