タイヤから貢献する農業の生産性向上へ

 担い手の減少による人手不足や高齢化が加速している農業。生産効率を高めつつ、将来に繋がる強い農業を育成していくことは今後ますます重要になってくる。農家が抱える様々な課題に対して、農機メーカーが情報通信技術(ICT)を活用したスマート農業に力を入れる中、タイヤメーカーも効率的な農作業に貢献するべく最新技術を搭載した新モデル投入の動きを活発化させている。各社はニーズに最適な提案を進め、生き残りを模索するユーザーを強力にサポートしていく。

多様なラインアップでユーザーの課題解決へ

 7月中旬、北海道帯広市で日本最大級の農業機械展示会が開催された。4年に一度開かれるイベントには、5日間で前回を上回る20万1000人が来場した。会場では主要な農機メーカーが数百馬力のパワーを誇る大型マシンを数多く展示し、詰めかけた来場者の注目の的となっていた。

ミシュランはラジアルタイヤの優位性を訴求

 大型の農業機械は広い農地を持つ海外で使われることが多かったが、北海道などを中心に規模が拡大するのに伴い、国内での導入も増えているという。こうした機械に装着されているタイヤの多くはラジアル。中でも特に目立つのが仏ミシュラン製で、「高馬力の機械では7割くらいが当社製品」(日本ミシュランタイヤの高橋敬明常務執行役員)という見方もあるほどだ。

 今回の展示会で日本ミシュランタイヤは、同社のベストセラー「アグリビブ」の後継モデル「アグリビブ2」や、耐久性や耐荷重性を犠牲にせずに低空気圧での使用を可能にした「アキシオビブ」など、ラジアルの優位性を徹底的に訴求した。

 圧倒的な存在感をみせるミシュランに対し、強力な商品を投入するのが初出展したブリヂストンだ。ブースでは大型トラクター用ラジアルタイヤ「VT-TRACTOR」を披露した。低い空気圧で使用でき接地面積が増加することにより、「牽引力の向上や乗り心地の改善、土壌の踏み固めを抑える効果もある」(担当者)。

ブリヂストンは「VT-TRACTOR」を披露

 同社はこれまでラジアルはファイアストンブランドで展開してきたが、国内での知名度が高いブリヂストンブランド初の農機用ラジアルタイヤとして注目度も高い。

 農機用タイヤでは、この“低内圧”が重要なキーワードとなる。トラクターが畑を走行すると、車重で土壌が圧縮され、微生物がいなくなった“死んだ土”となってしまうケースが少なくない。踏み固められた硬い層になると根の生育にも悪影響を与える。

 そうした課題を解決する切り札の一つがラジアルタイヤだ。バイアスと比べて接地面積が大きく、路面圧縮が低減できるほか、トラクションの良さがオペレーターの負担軽減、生産性向上にも寄与する。イニシャルコストは上がるものの、トータルでのメリットは大きく、農機の高性能化や装着率の高さを見れば、その優位性は確実に浸透しているようだ。

 日本ミシュランタイヤB2Bタイヤ事業部の田中禎浩氏は、「大規模な土地で効率を上げるためには高出力な機械が必要になるが、そのパフォーマンスを最大限発揮できるかどうかはタイヤにかかってくる」と話す。その上で「土壌に優しいラジアルタイヤを利便性良く使って頂く。そのニーズは高まっている」と、一層の需要拡大への期待感を示した。

 また同社は建設・産業機械用タイヤも含めた幅広いラインアップを紹介した。「農家では堆肥を運んだり、冬に除雪をしたりと様々なタイヤが使用されているが、我々はそれぞれに対して最適な製品を提供できる」(田中氏)とし、生産財全体で提案していく姿勢を鮮明にしている。

 農業機械では人手不足に対応する無人のトラクターやICTで効率性を高めた最新モデルの展示も目立った。展示会の関係者は「この流れは一層加速する」と見通しており、今後はタイヤでのデジタルツールなどの活用も期待される。

 こうした中、この数年、特に生産財事業でソリューションビジネスへの転換を積極化しているブリヂストンは、「農機用タイヤでも空気圧管理などにITを活用できるかもしれない」(グローバル鉱山・農機ソリューションカンパニーの藤原敦洋部長)と将来の可能性を話す。さらに「我々はタイヤだけではなくゴムクローラや油圧ホースなど様々なゴム製品を扱っている。これらを組み合わせた提案を進めていく」と強みを活かして顧客ニーズに応えていく考えだ。

「アライアンス」ブランドを展示した横浜ゴム

 ミシュランはドライバーが空気圧を自由に設定できる「エボビブ」を参考出品した。土壌では低内圧、舗装路では高内圧と、シーンに合わせた空気圧に変更できる独自のシステムを採用し、更に高いパフォーマンスに繋げていく。2018年に欧州で販売を始めており、今後、国内への導入を検討していく。

 今年、海外で実績があるブランドが日本市場に本格参入したことも注目が集まった。横浜ゴムが2016年に買収したアライアンスタイヤグループ(ATG)の「ALLIANCE」(アライアンス)ブランドから豊富なラインアップを展示した。

 アライアンスは欧米を中心にグローバルで販売され、多くの農機メーカーに新車装着されるなど信頼性は高い。これまで代理店経由で流通していたが、横浜ゴムとして6月から販売を始めた。今後、日本市場向けのサイズ拡大も検討していくという。

 タイヤ国内REP生産財営業部の田中誠氏は、「コストパフォーマンスに優れており、リーズナブルに提供できるのが強み。我々の販売網を活かして幅広く提案していきたい」と拡販への意気込みを話していた。


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