静岡市にある清北タイヤサービス(静岡市清水区庵原町594-9)。静岡県タイヤ商工協同組合の理事長を務めている鈴木規正さんの店舗だ。鈴木社長は一人ひとりのお客様に対して“基本的な作業”を疎かにしないことを最優先に、日々の業務に取り組んでいる。30年近く常連客に支えられてきた同店の成り立ちや取り組みを取材した。
清北タイヤサービスが所在する清水区は国際港である清水港を擁し、数多くの物流企業が拠点を構えている。また、同店は東京と名古屋を結ぶ東名高速道路・清水インターチェンジや新東名清水連絡路清水ジャンクションに隣接するなど、交通の便が良い立地となっている。
開業は1991年4月。鈴木社長はそれまで約10年間静岡県内の運送会社で事務員として伝票入力の作業に従事しながら、知人のタイヤ店舗で約2年間手伝いをしていた。その後、後継者不在で廃業したタイヤ専業店である清北ゴム商会の経営を縁があって引き継いで、新たに清北タイヤサービスとして立ち上げた。
開業当時を振り返ると、「周辺には老舗タイヤショップが多くあって、新規顧客を獲得するのは難しかった」という。そのため、鈴木社長は早期にタイヤ出張サービスカーを取り入れて、少し遠い場所まで範囲を広げて顧客開拓を行ってきた。
また、タイヤのパンク修理や交換などロードサービスを約20年間行い、そこで知り合ったドライバーが店舗の常連客になったことも少なくないという。
トラック・バス用タイヤを中心に取り扱う同店は、産業廃棄物処理事業者や建築資材の運搬会社、個人の運送事業者が主な顧客層となる。ブランドはダンロップとヨコハマをメインにブリヂストンやトーヨー、ミシュランも取り扱っている。また、ユーザーの要望に応じて乗用車用タイヤも一部販売している。
ただ、在庫はほとんど持っていない。車で30分圏内にタイヤ販売会社が倉庫を構えており、作業中にタイヤが届くケースもあるからだ。
現在、店舗の近隣にはタイヤメーカーの直営店など競合店が多数出店しているという。そのような中で「値段だけでは勝負にならない」ため、基本的な作業を徹底することに重点を置き、多くの顧客から支持を得ている。
例えば、トラック・バス用タイヤの交換などで規定トルクレンチを用いて正確に締め付けるのもそのひとつだ。大型車のホイールの取り付け方式には現在JIS、ISO、新・ISOの3つの規格がある。これらの規格は構造が異なるため、作業上では規定トルクレンチでそれぞれに応じた適切な締め付け方法が求められている。
鈴木社長は「決められたことをしっかり行うようにするのは基本だ。規定トルクレンチで締め付けるにはそれなりの手間と時間がかかってしまうが、我々専業店としてはこうするべきだと考えている」と、念入りに作業することの必要性を強調する。
締め付けトルクの管理不足やホイールナットの締め忘れなどが原因とみられる大型車の脱輪事故はここ数年、増加傾向にある。国土交通省の統計によると、2016年度の発生件数は前年度比15件増の56件だった。特に11月から3月までの期間に多発している。
同店は繁忙期にも関わらず、すべての車両に対してトルク管理を行っている。こうしたドライバーの安全を第一に考えた強い責任感があるためか、一度離れた顧客が再び戻ってきたこともあるそうだ。
顧客との会話で商売の可能性広げる
一方、鈴木社長は一つの悩みを抱えている。それは人手不足だ。同店ではこれまでスタッフが2名いたが、今年2月に1名が退職した。景気回復を背景に雇用が拡大している中、タイヤ業界も人手不足の傾向が強まっているようだ。「この3年間はスタッフの入れ替わりが激しかった。面接に来ても真面目に働いてくれそうな人は多くはない」という。
ではどういう人材を求めているのか――。「単に整備作業ができるだけでは足りない。明るく、お客様とコミュニケーションを取れることが重要だ」とその人材像を描いている。
「ちょっとした声掛けでお客様の情報が仕入れられるかもしれない。また雑談を通じてお客様との距離を縮められれば、その中から得られた情報が次のビジネスに繋がる可能性もある」
また、情報収集の一環として、組合活動にも積極的に参加している。鈴木社長は2015年から静岡県タイヤ商工協同組合の理事長を務めており、定期的に組合員との情報交換を行い、足元の景況や他店の新しい取り組みを共有している。
3年後に開業30周年を迎える清北タイヤサービス。鈴木社長は「お店の規模そのものを拡大するのは現状では難しい。既存のお客様を大事にし、作業の質を確保することで、それを次の世代に残していければ」と、今後の展望を語った。