ブリヂストン創業の地 久留米市を訪ねて①久留米工場

シェア:
カテゴリー: レポート, 現地

歴史と最新設備を併せもつマザー工場

 ブリヂストンは1月26日、同社創業の地である福岡県久留米地区でメディア向け見学会を実施し、マザープラントである久留米工場および市内にある創業者・石橋正二郎氏ゆかりの施設を公開した。今号では、創業者のDNAを次世代へ継承する役割を担いつつ、操業開始から80年を超え、なお進化し続ける久留米工場の取り組みをレポートする。

 ブリヂストンの創業者・石橋正二郎氏(1889~1976年)は、仕立屋の二男として久留米市で生まれた。久留米商業学校卒業後、17歳で家業を継ぎ、地下足袋やゴム靴の量産体制を確立したのは有名な話だ。その後、1929年から将来の車社会の発展を確信し、自動車用タイヤの開発に着手、1930年には純国産タイヤの製造に成功し、1931年3月1日に前身となる「ブリッヂストンタイヤ株式会社」設立した。同時に国内最初のタイヤ工場として操業を開始した久留米工場は、まさに同社の歴史そのものである。

 現在の生産品目は、航空機用、小型トラック用、トラコンパ(乗用車用スペアタイヤ)、産業・農業車輌用、レーシング用と多岐にわたる。出荷先は新車用2割、国内市販用4割、輸出用4割。新品の航空機用タイヤを生産しているのは、世界中で東京工場とここ久留米工場だけだ。

 生産量は月産3400トン。日産本数にするとラジアルタイヤ1万本、航空機用タイヤ90本。需要増に対応したフル生産が続いており、創業以来培われてきた高い技術力で多品種少量生産を支える。

 工場の敷地面積は18万3955平方メートル、建築面積は10万682平方メートル。敷地内にタイヤの骨格となるナイロンやポリエステルなどのタイヤコード工場とモールド工場を保有してており、ここから西日本の各工場へ供給している。

旧工場の柱部分を残しモニュメントに
旧工場の柱部分を残しモニュメントに

 操業開始時の従業員数は、約140人。その後、規模を拡大するにつれ1960年代には約4000人まで増加したが、生産性向上とバイアスタイヤの海外移管を進めた結果、現在は1180人となっている。製造部門の勤務体系は、4班3交代で、年末年始など一斉休日を除き年間346日操業している。

 久留米工場は、2005年に実施した耐震診断の結果、一部の建屋で耐震補強が必要であることがわかり、リニューアルを決定した。総工費160億円を投じ、第1建屋(旧第1工場)を撤去するとともに新第1工場を新築する工事を実施、一昨年10月に建て替えを終えた。2013年中に第2工場から設備を移管し、全ての計画が完了する。

 今回は、その新築して間もない新第1工場の成形工程と材料工程を見学した。新工場の目玉は、リニューアルに伴い新たに導入した「自動運搬システム」と新設した「展示スペース」だ。

 「自動運搬システム」は従来、人間が手作業で行っていた中間材料や加硫前の生タイヤの搬送を機械で自動化したマテハンシステムのこと。スペースの有効活用と運搬工数削減を目的としている。新設備の導入効果により、旧工場と比較して25%のスペースレスや多サイズ対応力が向上。この結果、約30%生産性が向上し、省人化も実現した。

 新工場はモノづくりの基礎である「SEQCD全てにおいて世界ナンバー1」を目指す活動を推進しており、コンセプトとしてクリーン・コンパクト・コストパフォーマンスの「3C」を掲げる。従業員が一丸となって取り組む姿はマザープラントに相応しく、満ち溢れた気概を印象づける。

見学用のデッキ
見学用のデッキ

 また見学方法がユニーク。一般的な工場見学は機械付近を順路に沿って進むが、新工場は見学者専用のガラス張りデッキを設置した。高い位置から工程全体を見渡すことができ、一部の材料や金型は実物を手に取ることも可能だ。加硫・押し出しなど他工程についてはモニターに映し出した映像を活用する。

 さらに今回のリニューアルと併せ、エントランスに「展示スペース」を設けた。同社の歴史や工場で生産する各種タイヤ、社会活動を最新のタッチパネルなどで紹介する。また創業者の執務室を再現した部屋を展示スペース横に移転した。実際に使用した家具などが置かれており、当時の様子を伺い知ることができる。

 現在、月に10件前後の見学を受け入れており、将来的には誰もが気軽に立ち寄れる場として幅広く対応していく予定だ。

創業者の執務室を再現した
創業者の執務室を再現した

 なお、建て替えに伴い、環境に配慮した設備も多く取り入れた。オフィス部分や展示スペースにLED照明や自然採光窓を設置したほか、太陽光発電設備などを導入し、CO2排出量削減に努めている。

 久留米工場は、人材教育の場としても重要な役割を担う。定期的に海外拠点から将来の幹部候補となる人材を集め、歴史を振り返るプログラムを実施している。ほかにも他工場から多くのスタッフが研修に参加するなど、久留米工場の技術や品質管理がブリヂストン製品を支えているといっても過言ではない。

 峯尾工場長は「リニューアルした第1工場を通じ、創業者の理念を確実に次世代へ継承していく重要な役割がある」と話す。

 新工場に導入した最新の設備と、歴史を知ることができる展示スペース、そして工場内外に点在する創業者「ゆかりの施設」。久留米工場はブリヂストンの過去から現在までを深く理解するとともに、原点について思いを馳せることができる貴重な存在となっている。

 昨年3月に創立80周年を迎えたブリヂストン。現在世界20カ国・47カ所に新品タイヤ工場を構えており、さらにインド、北米、ベトナムで新工場の建設計画が進む。海外生産比率は7割を超え、約14万人のグループ従業員を抱える。日本を代表するグローバル企業へ成長した今だからこそ、創業者のDNAを色濃く残すマザープラントの役割が一層重要になってくるのではないか。現地を訪れ、このことを実感した。

関連:ブリヂストン創業の地 久留米市を訪ねて②「創業者ゆかりの施設」 | ブリヂストン創業の地 久留米市を訪ねて③「久留米とのかかわり」


[PR]

[PR]

【関連記事】