伊ピレリグループのアジアパシフィックにおける唯一の生産拠点――中国山東省にある倍耐力輪胎有限公司(Pirelli Tyre Co.,Ltd.)は同社グループが世界各地で展開するタイヤ工場の中で、もっとも大きな規模である。今年、操業開始から10周年を迎える同工場が果たす役割や取り組みについて取材した。
高性能タイヤの比率拡大
中国の経済大省と言われている山東省には国内・外から多くのタイヤメーカーが集結している。その西南部に位置するエン州区(YANZHOU)市は、上海と北京を結ぶ新幹線が南北を貫くなど、山東省から各地へと向かう交通網が整備されている。また、青島港に近いことで海外への輸出にも効率的だ。ここに倍耐力輪胎有限公司(中国工場)が所在する。
中国工場の敷地内は大きく4つの工場に分かれている。第1工場は乗用車用タイヤの主力工場。第2工場は乗用車用タイヤと二輪車用タイヤの生産を行う。第3工場はトラック・バス用タイヤ、第4工場はスチールコードの生産工場だ。
今回見学したのは第2工場。操業開始は2011年末。現時点での乗用車用タイヤの生産能力は日産8000本で、2014年末に第1工場と合わせて年産800万本となる見込み(2014年11月現在)。このうち、高性能タイヤの生産比率は約60%を占める。2015年にその比率をさらに拡大し、68%に達する見通しだ。
製造しているタイヤサイズは17インチ~20インチ。仕向地はアジアパシフィックがほとんどだが、20インチのタイヤは米国への輸出も行う。
一方、二輪車用タイヤの生産能力は現在、年産100万本。さらなる市場ニーズに対応するため、2015年にさらなる増産を計画している。
OE供給実績を高める
中国工場のスローガンは〝we all make quality〟(品質を作る)。――このスローガンのもとに、生産設備に対する投資を惜しまず、最先端の設備を整えている。この第2工場における生産設備の約9割が輸入品で、ドイツやイタリア、オランダ、米国製のものが多いという。このようなところに品質優先の取り組みの一端を見ることができる。
さらに、成形工程において、ピレリ独自のランフラットタイヤ専用設備として「ATP」と呼ばれる生産設備を導入しているのが、ここ中国工場の大きな特徴だ。同社グループでは世界12カ国・22カ所にタイヤ工場を構えているが、「ATP」設備を備えているのは中国工場以外では、ドイツ、ルーマニアのみ。世界で3カ所という、限られたものとなっている。
市場の発展にともない、更なる成長を
「ATP」の設備で特徴的なのは、一次成形と二次成形を1台のマシンで作業できる点。中国工場では11台の「ATP」を取り入れている。それによって製造しているランフラットタイヤは、中国国内で販売されている高級車へのOE供給がメインとなる。
2013年から中国・BMWにOE納入のビジネスを開始し、これまで160万本を超える装着実績を持つ。さらに、昨年10月からは中国・ベンツへのOE供給も開始した。高い技術力と品質で生み出される製品をタイムリー供給することで、着実に市場シェアを拡大している。
ピレリグループは毎年、グローバルで〝クオリティ ウィーク〟を展開している。これは、約1週間を通じて原材料サプライヤーからユーザーまで、すべての関係部門が参加できるもので、〝品質の向上〟という共通テーマのもとで最高の製品づくりに努める活動を意味する。
中国工場のプロダクションマネジャーの丁春明氏は、「我々は毎年、原材料のサプライヤーを招いて工場を見学してもらい、そのサプライヤーたちから提供していただいたものが、ここで生産されるタイヤにどれくらい重要な役割を果たしているのかを的確に伝えようとするものだ。また、当社の従業員も中国・BMWなどのお取引先を訪問し、現場の声を聞き取って、改善すべき点などの情報を収集し、それをベースに一層の品質向上を目指す。このような一連の活動は、品質の向上を図るときに非常に重要なことだと考えている」と話す。
工場運営において、従業員の安全教育や訓練などによって自己管理の意識を醸成することも重要だ。同工場では、ピレリグループの世界の工場で発生した最新の事故事例を公表し原因を分析することで、同様の事故が起きないよう従業員に対する安全教育の強化に取り組んでいる。
それと並行して行っているのが、従業員全員の家族写真を集めてのパネル展示。「大切な家族のために、安全第一で無事にお帰りください」というメッセージをそこに添えている。安全意識の高揚を図るとともに、家族への思いを示すことで、職場での自己安全管理意識の向上に努めているのだ。
中国市場に進出してからまもなく10周年を迎える中国工場――この間、市場ニーズの変化に柔軟に対応し生産能力を拡張しつつある。今後、中国市場の発展に伴い、更なる成長が期待される。