「どうしたら愛されるのか」
東京都江東区にあるシノハラタイヤ株式会社の篠原大社長は、「強い独占欲の持ち主」だと自らを表現する。「常に考えているのはどうしたら1社でも多くの方に当社を選んで頂けるか」――それだけを考え、顧客に愛されることを最優先に率先して営業を行い、ビジネスを拡大してきた。背景にあるものは何なのか。その答えは明快だった。
東京港や羽田空港へのアクセスに優れる江東区辰巳地区。大規模な倉庫が立ち並び、大型トラックが行き交う物流の一大拠点だ。シノハラタイヤ株式会社は1979年1月、この地で創業した。
先代から経営を引き継ぎ8期目を迎えた篠原社長は当時を振り返り、「タイヤの商売が好きではなかったし、興味もなかった。先代は1人でやっており、顧客は港湾の限られた企業のみだった。それではビジネスとして発展しないし、とにかくぶつかっていた」と話す。
だが、今では20名の従業員を抱え、トラック・バス用をメインに産業車両用タイヤから海外のプレミアムカー向けタイヤまであらゆるカテゴリーを販売する地域を代表する大手ディーラーへ変貌を遂げた。
一時期は外注作業をすべて断る一方で、大手運送会社へ飛び込みで訪問をしたりといった、人並み外れた努力の積み重ねがあった。そのパワーの源泉は、「顧客からもっと必要とされる存在でいたい」という欲望だ。
「とにかくうちを選んでほしいという気持ちで顧客を開拓してきた。どうやって『あなたが一番ですよ』と思わせ続けるか――どうやったらこの人は当社しか見なくなるか?どうしたらもっと愛してくれるのか?これだけを考えてきた」――。
事業規模が拡大した現在、販売するブランド構成比ではミシュランとダンロップで約7割を占める。ほかにはブリヂストンやヨコハマ、ピレリなども取り扱っているが、小型トラック用タイヤも含めた生産財に限定するとミシュランが半分ほどとなっている。
国内市場全体をみると、決してポジションが高いとはいえないミシュランだが、「トラック用タイヤにおいて重要なのは安全性とコスト。この2つの性能がミシュランは分かりやすい」とそのメリットを語る。
ただ、その優位性を顧客に対しどう訴求するかが課題となる。そこで重要となってくるのが顧客管理の徹底だ。同社では以前からオリジナルの管理システムを導入して走行距離やコストを始めとした詳細なデータを記録し、それを分かりやすく提示する営業活動を継続してきた。
「それぞれの顧客ごとにタイヤのカルテを付けていくイメージで、きちんと形として伝えることが大切。単に『ライフが良い』といっても、『ああ、そうなんだ』で終わってしまう。どうすればお客さまを安心させ納得させられるか?どうしたら形に残していけるのか?そこに徹底的に取り組んできた。それが『あなたのことをこれだけ気にかけている』ということに繋がっていく」
近隣には複数のライバルが拠点を構える中、いかに次の成長へ繋げていくか。今、取り組んでいることのひとつは人材育成だ。
「仕事において一番大事なのはモチベーション。いかに従業員のモチベーションを維持して高めることができるかを考え続けている。愛社精神を持って、この仕事にプライドを持ってもらうためには言葉と行動で示さなければ」
篠原社長は「今でもタイヤの商売は嫌い」だと笑う。一方で、「自分がやっている会社だけは好きになれるようにしたい。お客さまから軽んじられるようにはしたくない」と力を込める。
「念ずれば花開く。1社でも多くのお客さまに当社を選んで頂きたいという想いだけ。利益は結果的に付いてくるものだと思う。とにかく当社からタイヤを買って欲しい、愛されたい」――。どこまでも強い独占欲、それが企業の発展に繋がっていく。