横浜ゴム シェア倍増へ向け改革推進
横浜ゴムはリトレッド事業を急拡大している。その中心となるヨコハマタイヤリトレッド(株)ではこれまで営業サイドとの間にあった見えない垣根を取り払い、また全国にある事業所が互いに協力し合う体制を整備するなど改革を進めてきた。「設立から1年半、ようやく手応えが出てきた」と話す田中孝一社長は、生産能力増強や物流体制の改善にも着手し、事業を一層強化していく考えを示した。
――昨今のリトレッド市場をどうみていますか。
「業界団体の調査では、2014年の出荷本数が前年比102%となりましたが、想像より低い印象です。要因の一つには新品タイヤの価格が下がったことがあります。リトレッドのメリットは新品との価格差にありますので。また他社がリトレッドを推奨しないタイヤを発売したことも背景にはあると思います」
――台タイヤの回収状況については。
「大きな流れの中ではとくにひっ迫しているという状況ではないですね。北米の港湾ストの影響で輸出量が減少していたこともあり、昨年秋頃から今年の3月頃までは回収がしやすかったと思います。ストライキが終わり、4月頃に一時的にひっ迫しましたが、今の所は安定しています。
ただ、価格が下がっているかというと、決してそうではありません。やはり日本のケーシングは非常に評価が高いので世界中で引っ張りだこです。台タイヤ不足が再燃する可能性は常にあり、甘くみてはいけないと改めて感じています。
また国内と海外ではメインサイズの違いもありますのでサイズをよくウォッチしていくことが重要です。日本では圧倒的に11R22.5が多いですが、北米は295mm、中国は1200Rが主流です。東南アジアも欧米サイズに向かうとすると、295mmや275mmといったサイズが不足してくる危険性はあります」
――ヨコハマタイヤリトレッドが設立して約1年半が経過しました。どう評価していますか。
「ようやく手応え感が出てきたというのが正直な思いです。大きな改革を進めていますが、これは簡単に言うと製販を近づけることです。各事業所の主たる役割はリトレッドタイヤの製造ですが、新品工場とは違い我々は販売も担っています。その割にはこれまで販売サイドとの交流の場面はほとんど無く、製販の距離が離れていました。
でもこれではいけない――台タイヤを多く回収するにはヨコハマタイヤジャパンともっと一緒になって取り組む必要があると思っていましたので、販売本部を駆け回って、時には社員と一緒に押しかけ的な訪問をするなど、徐々に打ち合わせを定例化できるようになってきました。
以前はお互いが実情を知らなかった面がありました。販売側から工場にオーダーしても納期がいつになるか分からない、製造側からしても台が回収できないじゃないかと。
色々な課題がありましたが、徐々にお互いを理解できるようになってきました。その結果、尾道事業所では台の回収量が2割ほど増えていますし、他の事業所でも確実に増えています。
当社は地産地消なので、その事業所が生産する分の本数が確保できれば良い、という考えで4事業所がそれぞれ回していました。ただ今年は尾道事業所で増産することを決めましたので、これからは全社で協力していく必要があります」
――尾道の生産を拡大するのですか。
「生産体制を1.5直に移行します。増産する分の台タイヤを尾道だけで確保できるかというとそうではありません。全社で台を回収して尾道に集約します。これは一番の統合効果だと思いますし、他の事業所もそういう意識に変わってくれたことが大きいと思います。今は埼玉事業所などから続々と台タイヤを輸送しているので、尾道の増産分はほぼ台を確保できる見通しが立っています。
尾道での生産は成形工程までは作り溜めして加硫工程だけ勤務時間を伸ばす予定です。そのために成形機も1台増やす計画です。また2020年までの設備投資計画も承認を受けたので、そこに向けて投資を継続していきます」
――2020年までにシェア倍増を掲げていますが見通しは。
「今の販売計画で推移すれば計画通り達成できる見込みです。尾道だけではなく、他の事業所も全て増産する予定です。来年には愛知も埼玉も1・5直化の準備に入ります。現状の設備では足りないので、成形能力やバフ能力を上げる必要はありますが、各事業所で徐々に設備投資を進めていきます。北海道の苫小牧事業所は移設して設備も2倍に拡大することを検討しています。2、3年先に同じ地区の工業団地へ移設を目指し市と折衝を始めています」
「生産拡大と併せて、いよいよ新品タイヤと同様の体制をスタートします。6月から九州・四国でテストを始め、8月をめどに全国展開します。今までは各事業所が担当エリアを持ち、その地域のカンパニーや独立系の販売会社から直接オーダーを受けて各事業所が個別配送していました。
一方、新品と同じ体制にすることで、オーダーはヨコハマタイヤジャパンが受けるようになります。営業所からのオーダーは新品と同じように横浜ゴムで一括受注し、その上で各事業所に割り振って出荷する流れになります。つまり当社が出荷する先は横浜ゴムの物流センターとなります」
――どういったメリットが生まれますか。
「営業サイドからすると発注方法が楽になりますし、インターネット上で在庫確認もできます。我々生産側からすると、ロット配送となるため輸送コストが低減できます。
さらに今までの在庫が物流センターに移ることで、その分スペースに余裕が出て、そこに台タイヤを保管するなど効率化も期待できます。スタッドレスは作り溜めするので保管スペースがネックとなっていますが、それも来年には移管する計画です。委託タイヤは所有権の問題がありますが、台付きに関しては8月から体制を変更します」
役割の重さを感じてほしい
――委託比率の向上や2回リトレッドへの取り組みは。
「委託は販売会社とタッグを組みユーザーを限定して取り組まなければと考えていますが、まだそこまではいっていないのが実情です。今年後半からもう少し詳細を詰めた活動に持っていきたいと思っています。我々にはエコメソッドや空気圧管理システムというツールはあるので、ターゲットを明確に決めていきたい。委託が増えれば台タイヤの不安が減り、生産能力を満たすオーダーを獲得しやすくなるので本腰で取り組んでいく予定です。
2回リトレッドは台を厳密に管理した上で、要望があった場合のみ実施しており量はまだ限られています。新車で11Rは衰退傾向にある一方で11Rのリトレッド需要は変わらない。2回リトレッドができればこうした矛盾を多少なりとも改善できますので絶対にやらなければならないと思います」
「この2、3年で一気に改革を進めている段階ですが、スタッフの皆が協力してくれていますし、横浜ゴムは野地社長も南雲会長もリトレッドに対して想いが非常に強く助かっています。将来を見越した時にリトレッドをやらないとTB事業が成り立たないと感じているのか、あるいは横浜ゴム全体で製品の品質を上げなければという考えもあるのかもしれません。今年の春に野地社長が尾道を視察した際、改革の進捗を確認して喜んでくれました」
「目指していた改革が確実に進んでおり、全体の雰囲気が変わりつつあると感じています。環境志向が高まる中、リトレッドが果たす役割はもっと強くなっていくと思っています。
事業が拡大に向かっていると社員も感じ始めているので、会社全体が前向きになってきています。これをさらに強く、責任を感じるくらいになってほしい。拡大するときは喜びのほうが大きいですが、ある程度まで達すると今度は役割が重くなってきます。その重さを感じる位までなってほしいし、そのサポートをしていきたいと考えています」