ウィンタータイヤの性能No.1を目指し開発を強化している横浜ゴムは、このほど北海道旭川市にあるタイヤテストコースで技術説明会を開催し、最新のコンパウンド技術や欧州市場で販売しているオールシーズンタイヤの性能比較などを披露した。同社は中期経営計画のタイヤ消費財戦略の中で「ウィンタータイヤ戦略」に取り組んでおり、商品の更なるレベルアップを図ることでドライバーの安心安全を支えるとともに、グローバルでの成長につなげていく。
横浜ゴムは数年前より冬用タイヤの開発拠点拡充や商品投入を積極化してきた。2015年12月に開発の高度化に対応するため、旭川市に新たなテストコース「TTCH」を開設。さらに昨年には敷地内に屋内氷盤試験場を開設し、より高度な技術開発を可能にした。
また、商品面では2016年に乗用車用スタッドレスタイヤブランド「iceGUARD」(アイスガード)初のSUV用タイヤを市場投入。その翌年には同社のスタッドレスタイヤとして“最高傑作”と自信を示す乗用車用の「アイスガード6」を発売した。同社が一般ユーザーを対象に実施した試乗会でも高い評価を得ているという。
「アイスガード6」は、従来品(アイスガード5プラス)と比較してアイスブレーキ性能を15%向上したことが特徴で、その鍵となったのが新開発の「プレミアム吸水ゴム」を採用したコンパウンド技術だ。ゴムに配合した「新マイクロ吸水バルーン」の分散を均一化し、氷表面の水膜の吸水効果を向上させた。またシリカの配合を増量するとともに、均一分散を促進する「シリカ高反応ホワイトポリマー」を搭載し、路面への密着性を高めることで氷上性能のレベルアップを実現した。
今回は氷上でのグリップ力を左右する吸水効果を体感するために通常の「アイスガード6」と、吸水剤を3倍に増量したコンパウンドを採用した試験タイヤを用意。氷盤路でその挙動やブレーキ性能を比較してみた。低速でのスラローム走行ではともに応答性が良く、イメージ通りにコースをトレースしてくれるため、その差はさほど感じられない。一方、時速20kmから急停止した際の制動距離には明確な違いが表れた。同じブレーキ操作を行っても試験タイヤは1割ほど手前で停止し、より強い減速感が得られた印象だ。
それでは次期モデルで吸水剤を増量すれば飛躍的に性能向上が達成できるのかというと、話はそう簡単ではない。現時点ではコスト面で課題があるほか、耐久性やライフにも不利に働くことが分かっているという。
同社では今後も開発を進め、こうした点をクリアできれば、数年後には一段上のレベルの商品が誕生しているだろう。
横浜ゴムでは海外で需要が拡大しているオールシーズンタイヤの開発にも注力している。特にドイツではこの数年で市場全体の10%以上まで需要が拡大しており、高いスノー性能と夏タイヤ同等のドライ・ウェット性能を両立した商品が主流だという。同社ではこうしたニーズに応えるべく、昨年秋に欧州向け乗用車用オールシーズンタイヤ「BluEarth-4S AW21」の市場投入を始めた。
今回、テストコースでスタッドレスとの比較を行った。圧雪されたコースではオールシーズンらしいグリップ感のある安心したドライブが可能だったのに対し、氷盤路では発進時にタイヤが空転するシーンがあったり、スラロームでラインをはみ出てしまうなどスタッドレスのほうが有利な印象だ。同社では「日本の冬道は非常にシビアなこともあり、現時点では導入は未定」としており、今後慎重に検討を行っていく考えだ。
ユーザーの安全に直結する冬用タイヤは高い技術力が求められるため、新興メーカーとの差別化を図る重要な商品の一つだ。このカテゴリーでトップレベルだと認められることで、横浜ゴムが目指すプレミアムタイヤ市場の中での一層の存在感向上につながっていくに違いない。