TOYO TIRE(トーヨータイヤ)は5月下旬、同社が“マザー工場”と位置付け、技術開発やグローバル市場向けの高付加価値製品の生産を行う仙台工場(宮城県岩沼市)で報道向けの見学会を開催した。生産現場でのこれまでの取り組みと今後の展望を聞いた。
マザー工場として重要な役割果たす
仙台工場は1964年に操業を開始した。現在の工場の従業員数は1492人と国内有数の規模を誇る。工場からは鉄道駅や空港など各所へのアクセスも良く、海外向けの出荷に利用する仙台港までは車で約1時間。輸送環境に恵まれた立地がタイムリーな出荷を可能にし、2018年には仙台港のタイヤ輸出量が国内で最多となった。
総敷地面積は21万7160平方メートル、2018年のタイヤ生産量は同社の国内新ゴム量(13万4000トン)のおよそ半分を占める。ここでは市販用の乗用車用タイヤを中心に製造しており、同社の中で仙台工場だけがレース用タイヤとホワイトレターの生産も行っているという。
工場は大きく2つの工法が採用されているのが特徴だ。メインとなるのが従来工法。混合工程では、以前はミキサーの傍らで作業員が計量して原材料を配合していたが、現在は適切に原材料を配合して袋詰めしたものを機械にセットするだけで済むように工程を改善。そのため、現場での作業手順が省略されサイクルタイムの短縮につながっている。
また、カレンダー工程では、部材に電子線を照射してゴムを適度に硬化させるEBR装置を導入している。これによりゴムの部材を薄くすることができ、タイヤの軽量化を図ることができる。
このように技術革新が進む従来工法に加え、仙台工場は2002年に同社が独自に開発した次世代タイヤ製造技術「A.T.O.M.」(アドバンスド・タイヤ・オペレーション・モジュール)工法を使用したタイヤ生産を開始した。
従来工法は、成型工程でトレッドなど幅の広い部品をドラムに巻き付け、両端部分を重ねて貼り合わせている。そのため、ジョイント部分がタイヤ全体のバランスにわずかに影響を与えてしまう可能性もあった。
一方、次世代工法は細いリボン状の材料をドラムに巻き付けて形成するためジョイントレスとなり、タイヤの均一性を向上させることが可能となるのが大きなメリットだ。
同工場の戸田博也製造部長は「A.T.O.M.のメリットが発揮できる大口径タイヤを中心に活用している」と話す。
ただ、タイヤの品質は向上するものの、成型に要する時間が乗用車用タイヤの場合は従来工法の1.5~2倍程掛かってしまうため、仙台工場では一部製品のみに使用しているという。
仙台工場は、もう一つの国内拠点である桑名工場とともに、米国やマレーシア、中国に構えるタイヤ工場に対して技術発信を行うマザー工場だ。
例えば、「A.T.O.M.」工法を開発したのは仙台工場。同拠点では現在も9割以上が従来工法で生産されているものの、新工法は仙台から世界に広がり、2017年にはTOYO TIRESの乗用車用タイヤ生産量の45%が「A.T.O.M.」で生産された。
現在、技術開発の起点として取り組むのはデジタル化だ。戸田部長は「センサーを一部の機械に取り付けてデータを取得していく」と説明する。
得られたビッグデータを性能や品質、不良率の改善などにどれだけ活かせるか――。「知識や経験はあるが数字上で言えるものがまだまだ無いためデータを解析したい」と今後を見据える。
例えば、従来工法の成型過程では、トレッドの貼り合わせ作業に難しい制御技術が求められる。こうした人の手を介在させなければならない場面に対して、将来的にはデジタル化の成果を適用していく方針だ。
さらに、国内では労働人口の減少も課題となる。そのため、従来工法がメインの仙台工場でも、人ではなく機械でオペレーションすることが大事になっていく。
戸田部長は、「(生産の自動化は)1~2年先で出来るようなレベルではない」としつつも、「デジタル化の結果が出た際には海外の新たな拠点にも展開したい」と展望を示した。
昨年の仙台工場の出荷先のうち国内市場向けは2割。残りは北米と欧州にそれぞれ約3割ずつ、中南米やアフリカなどその他地域に約15%と、海外出荷比率が全体の8割を占めている。
グループ全体では、北米向けを生産する米国工場や、グローバル供給のハブ機能を担うマレーシア工場の増産投資も進んでいるが、今後も仙台工場は輸出向けが中心となる見込みだ。
ただ、敷地の余地も少なくなってきているため、増産を進めるというよりは何を生産していくのかが重要となる。野村義行仙台工場長は「ここでしか作ることが出来ない高品質なものを作り続けていくというのが我々の使命」と語る。
現在は、優れた品質を確保するために教育体制の確立を推進している。品質保証や技術、生産管理などの間接部門が直接部門に知ってもらいたい内容をまとめ、現場の課長や係長、作業長といった階層別に合った教育カリキュラムを作成中だ。
野村工場長は「部門ごとに知ってもらいたいことを整理し教育を始めるが、出来たら終わりにするのではなく、その都度見直して追加を繰り返したい」と、将来も見据えている。
一部の海外工場はまだ歴史が浅く、不良率の削減などに関する蓄積データが少ないのが現状だ。一方、仙台工場は操業から55年という年月が経ち、スタッフが海外拠点の立ち上げに出向くことや、反対に海外から仙台に学びに来るケースもあるという。これまで積み重ねてきた取り組み、さらに開発を進めていく新たな生産工法など、仙台工場が果たしていく役割は今後も一層重要になっていく。
環境負荷低減へ ガスタービン設備を稼働
TOYO TIREはCSR活動の一環として様々な環境負荷低減への取り組みに努めているが、仙台工場の熱エネルギー源の転換もそのひとつだ。
2016年からタイヤの生産工程などに用いる熱エネルギー源を石炭・重油から天然ガスへ切り替える設備の導入を段階的に進め、今年2月に稼働した。これにより、仙台工場における2019年のCO2排出量は前年比で24%の抑制が見込まれている。
加えて、すでに熱エネルギー源に天然ガスエンジンを導入している桑名工場(三重県)と合わせて、国内生産拠点における2020年末までのCO2排出量の削減目標を前倒しで達成する計画だという。