タイヤ整備作業の現場で求められる“省力化・軽労化”。東洋精器工業では、そのテーマに取り組むべく、10年間を見据えた製品のラインアップ構想に着手した。
現場で“省力化・軽労化”が特に強く求められているのがタイヤの脱着作業時だろう。そこで同社では、タイヤチェンジャーのラインアップ充実を図った。その第1弾が既に本欄でレポートした、乗用車用タイヤチェンジャー「PIT ATHLETE-Ⅱ」(ピット アスリート・ツー)のマイナーチェンジ仕様だ。「PIT」シリーズのスタンダードモデル、別の言い方をすればエントリーモデルという位置付けである。
ところで、タイヤチェンジャーのユーザーについて三角形で階層をイメージすると、このエントリーモデルは底の部分にあたる。面積がもっとも広い。つまりユーザー数が一番多い。その上にミドルクラスがあり、さらにその上にハイエンドモデルがある。
製品ラインアップ構想に基づき同社は今年、第2弾としてセンターロック式レバーレス専用機のエントリーモデル、第3弾にミドルクラス、第4弾にはハイエンドモデルにそれぞれ新製品を投入する計画で順次その準備を進めている。タイヤチェンジャー「PIT」シリーズの拡大により、タイヤ脱着作業に携わる、あらゆる業態のニーズにきめ細かく対応を図る考えだ。
エントリークラスの乗用車用センターロック式レバーレスタイヤチェンジャー新製品が「PIT M897」。この春、本格販売を開始する予定。販売企画部主任の森本祐二さんが新製品の解説と実演デモを担当してくれた。
森本さんは「新製品は、従来モデルの改良版という考え方ではなく、新機種として一から企画しました」とし、「完全なレバーレス作業を実現する、エントリークラスのタイヤチェンジャーです」、このように紹介する。
製品のカラーリングは、「PIT ATHLETE-Ⅱ」と同様に、漆黒のマットブラックを採用。従来モデルとは一線を画し、高級感を表現する。
レバーレス作業への対応を図るため、「PIT M897」ではセンターロック方式を採用した。ただ森本さんは「これまで従来のヨーロピアンタイプのチェンジャーを使い慣れたお客様にも違和感なくお使いいただけるよう、製品ビジュアルや機能について随所に工夫を凝らしました」と説明する。
その一つがビード落とし作業。ヨーロピアンタイプのチェンジャーと同じく、床面でビード落としを行う。その後、側面装着型タイヤリフトを使用しターンテーブルに置くようにしながらセンターロックの軸にセットする。「このあたりの作業手順、使い勝手はヨーロピアンタイプと変わらないので、戸惑いなく作業していただけると思います」、作業を進めながら森本さんがそう解説する。
垂直軸の昇降はバネ式を採用した。当初はエアーシリンダーで開発したそうだ。だがその場合、作動するまでに微妙なタイムラグが生じる、あるいは位置を修正するのに逆に力が要るなど、使いにくさを感じるところがあったそうだ。「いろいろと試行錯誤した結果、バネ式がもっとも使いやすく、しかも故障しにくいというメリットがある」として、採用に至った。
「PIT M897」には、サポートユニットを本体右側に集中的に配置した。これは「PIT ATHLETE-Ⅱ」と同じ設計思想、すなわちレバーレス作業を円滑に、素早く、確実に行うため。そしてサポートユニットを本体右側に集中させることで左側スペースをコンパクト化し、作業者の動線を極力少なくすることで、作業の一層の省力化・軽労化を実現するためだ。
森本さんは機器本体のペダルとサポートユニットのボタンを操作し、プレスバーなどの位置を確認しながらランフラットタイヤの脱着作業を進めていく。「わたくし自身がタイヤチェンジャーの専属担当ではないので、専属の担当者よりも脱着作業が上手ではありません。ですが、そんなわたくしでも『PIT M897』を使うことで遜色なく、力もほとんど使わず楽に、レバーレスでタイヤの組み込みや取り外し作業ができます」――この言葉に、新製品のバリュー(価値)が表されている。