横浜ゴム ウィンタータイヤ性能No.1に向けた進化とその実力

 国内、欧州、ロシア・北欧向けウィンタータイヤで性能ナンバー1を目指す  横浜ゴムは、中期経営計画のタイヤ消費財戦略でこの目標を掲げている。ウィンタータイヤの中でも「iceGUARD 6」(アイスガード・シックス)は、これまでの開発で培ってきた技術を投入し、“ヨコハマスタッドレスタイヤ史上最高性能”を自負する。2月3、4日には、旭川市の北海道タイヤテストセンターで勉強会・試乗会を開催し、ウィンタータイヤの性能を紹介した。

 勉強会に出席した野呂政樹取締役常務執行役員は、「TTCHはオープン以来、毎年評価設備を拡充してきた。当社のウィンタータイヤの評価精度や評価スピード、商品力の向上に多大なる貢献をしている」と語る。

野呂政樹取締役常務執行役員
野呂政樹取締役常務執行役員

 2015年12月に開業したTTCHは敷地面積が約90万m2あり、東京ドーム約19個分に相当する。今年1月には、コーナーを計10個設けた新しいハンドリング路を開設した。

 新コースは時速50~70kmほどで走行し、30Rと50Rを組み合わせた複合コーナーでは「欧州向けウィンタータイヤで加速しながらコーナリングする」(担当者)など、使用地域を想定したテストが実施できる。時計回りで欧州向け、反時計回りで国内向けのウィンタータイヤを評価する仕様だ。

 最大勾配は5%あり、コーナーではアンダーステアの大きさや切り増しの追従性、車の挙動のほか、荷重が抜けた時のグリップの抜けの早さと滑りの大きさなどを確認することも可能になった。

 このため、欧州向けタイヤに細かな改良を施した際はTTCHで選別してからスウェーデンに設置するテストセンター(YTCS)に送るなど、グローバルでの評価施設の最適化も進んだという。

 評価設備の拡充に対し、スタッドレスタイヤの技術開発ではゴムの摩擦力と除水効果、エッジ効果の3要素を進化させてきた。摩擦力に対しては、低温でも柔らかいゴムを採用し、氷表面の微細な凹凸の隙間を埋めて接地面積を確保。またアイスバーンでは、表面のミクロの水膜でタイヤと路面が密着せず、トレッドゴムが摩擦力を十分に発揮できないことが課題になる。そこで、タイヤ表面のゴムを凸凹にして水膜を吸水しているほか、トレッドのラグ溝やサイプが氷をひっかき、氷上水膜を取り除くことに貢献している。

 横浜ゴムでは、1985年に同社初のスタッドレスタイヤ「GUARDEX」(ガーデックス)を上市して以降、氷上性能を高める3つの効果を中心に技術開発を進め、2017年に「アイスガード6」を発売した。

 同商品は、一世代前の「アイスガード5」から非対称パターンを継承し、高い次元で氷雪上の性能をバランス。また、新・立体サイプで剛性を高めて走行性能の向上を図り、新・低発熱ベースゴムが低転がり抵抗を実現するなど、氷上性能以外の面も配慮した。

 搭載するコンパウンドは背反するアイス性能とウェット性能の両立を図り、様々な技術を導入して開発した。その一つが、同社が強みとするシリカ技術だ。

横浜ゴムのスタッドレスタイヤ試乗会

 ウェットとアイス性能の両立にあたりポイントになったのは、しなやかさや接地面積の増加による凝着摩擦を向上させること。このとき、シリカを配合したゴムがカーボン配合ゴムに比べて路面により密着できることに着目した。

 ただ、シリカ配合ゴムのしなやかさを確保するには、従来のスタッドレスタイヤよりも多量のシリカを配合する必要がある。また、シリカの効果を発揮させるにはシリカを均一に分散させなければならないが、配合量が増えるほど分散性が悪化することがクリアすべきテーマとなった。

 そこで同社では、従来配合してきたブラックポリマーⅡを、シリカの分散性が優れたホワイトポリマーに一部置き換え、この課題を解決した。

 ホワイトポリマーを活用してシリカの高配合を実現し、ウェット・アイス性能を両立させたものの、コンパウンド開発では経年劣化の抑制に取り組む必要があった。ブラックポリマーⅡは、スタッドレスタイヤの氷雪性能が“永く効く”ことに寄与する素材として従来使用していたからだ。

 氷雪性能を発揮するにはゴムの柔らかさ、しなやかさが重要だが、時間の経過とともにゴムの柔らかさを保つオイルが抜けて硬度が上がる  この経年劣化のメカニズムに対応したブラックポリマーⅡは、オイルに比べて時間が経ってもゴムから抜けにくく、さらに低温でも硬くならない特性を持つ。

新品(上)と4年経過後相当(下)の氷上制動距離を比較した
新品(上)と4年経過後相当(下)の氷上制動距離を比較した

 そのため、同素材をホワイトポリマーに置き換えた「アイスガード6」では、タイヤのしなやかさを保つオレンジオイルSを新規に採用した。これにより「アイスガード6」は、「“永く効く”性能を追求し、4年経過後も高い性能をキープするというコンセプトで開発した自信作」(タイヤ第二材料部材料1Gの中野秀一グループリーダー)に仕上がった。

 TTCHの屋内氷盤試験場では、「アイスガード6」の「新品」と「4年経過後相当品」の比較試乗を実施し、氷上の制動距離を確かめた。なお、4年経過後相当品はラボで劣化を促進させたもので、摩耗は進行していない。

 試乗はトヨタ「カローラスポーツ」にそれぞれの製品を装着して行った。時速20kmからブレーキを踏み込んだところ、新品の制動距離は10m弱、4年経過後は新品よりも若干手前で止まる結果となった。

 モータージャーナリストの日下部保雄氏は「新品の方が吸い付くように止まってくれるが、4年経過後相当品はこの感触が少し弱い」と指摘する。ただ今回の試乗では、氷上性能が“永く効く”技術の開発成果を実感することができた。

 将来のタイヤ開発について、研究開発部の橋本佳昌主幹は、土木研究所と気象庁のデータを基に「50年後は冬の期間が短期になり、積雪量も温度上昇に合わせて減っていく」と予想を話す。

 ただ、1回の降雪量は大きく変化せず、アイスバーンも存在し続けると考えられるため、今後も優れた氷上性能を持つスタッドレスタイヤは必要になる。横浜ゴムでは評価と搭載技術をともに進化させ、高いレベルでの商品開発を推進する考えだ。

ウィンタータイヤでスポーツカー向けサイズも展開

 近年横浜ゴムでは、スタッドレスタイヤは乗用車用「アイスガード6」や、SUV用「アイスガードSUV G075」などを展開するほか、今年1月には国内で乗用車用オールシーズンタイヤ「BluEarth(ブルーアース)-4S AW21」を発売し、ウィンタータイヤの商品ラインアップを拡充してきた。

 「アイスガード6」では18、19インチで35、40偏平のスポーツカーにマッチするサイズも用意している。試乗会ではポルシェ「ケイマン」に装着し、雪上でのスラローム走行を披露した。

 スポーツカーは冬の間、ウィンタータイヤを装着するか、あるいは「乗らない」というユーザーも多い。ただ、ウィンタータイヤはアイスバーンで不安を感じるケースもあるが、スタッドレスタイヤであれば安心だ。担当者は「スポーツカーも装着できるサイズラインアップを訴求し、安心できる性能を体感していただきたい」と話していた。


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